目がぱっちりの現代風おひな様も登場
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伝統的な「ひな人形」の中で最も位の高い男女一組のお内裏様とおひな様(吉徳提供)
ひな祭りのシンボルは、何と言っても「ひな人形」です。3月が近づくと、女の子がいる家庭では、大きな人形セットを組み立てます。赤い布地が敷かれたひな壇のいちばん高い場所には、宮廷でいちばん位の高い人が着る衣装を身につけた男女一組の内裏雛(だいりびな)が飾られます。その下の段には、赤い袴(はかま)を履いた3人の女性や、楽器を持った5人の子どもたちの人形がならびます。
地域によって異なった風習も生まれており、静岡県にある伊豆半島の温泉地では150年ほど前から、家庭で手作りしたたくさんの「つるし雛」と呼ばれる小さな人形を飾っています。
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伊豆半島の温泉地で飾られている「つるし雛」。手作りの人形の一つ一つには、女の子の幸せを願う家族の思いが込められている(稲取温泉旅館協同組合提供)
小さな人形たち一つ一つの表情や衣装、小さな灯籠(あんどん)などの小道具は、どれも本物そっくりで、日本人の職人ならではのきめ細やかな手作業が反映されているのも見どころです。ミニチュアの世界に再現された昔の宮廷生活の一コマは、いくら見ていても飽(あ)きることがありません。
その人形たちの中でも、ひときわ目立つのが12枚の着物を重ねる「十二単(じゅうにひとえ)」というスタイルの伝統衣装を身につけている女性、「おひな様」です。
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丸顔でおでこが広く、目がぱっちりとした現代的なひな人形(晃月人形提供)
伝統的な日本人形の技法を受け継いでおり、昔ながらの面長で目が細い日本的な顔のおひな様が主流ですが、最近では、表情や髪形などがちょっとずつ現代風に変わってきているといいます。4年前には、伝統的な日本顔とは大きく違う丸顔でぱっちり目のひな人形も登場しました。最近では、アニメや漫画を見て育った若いお母さんや子どもたちの人気も高く、購入する家庭がだんだんと増えてきているようです。
役割終えて「第二の人生」楽しむ
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60段もある神社の階段にていねいに飾り付けられた巨大なひな壇飾り(勝浦市提供)
ひな人形セットは、3月3日を過ぎると、なるべく早くしまわなければなりません。長く飾り過ぎると「将来、女の子の結婚の時期が遅れてしまう」との言い伝えがあるからです。
ひな人形たちは、倉庫などにしまわれて長い時間を過ごしますが、持ち主の女の子が結婚して家を出ると、ひとつの役割が終わります。親から子、孫に代々と受け継ぐ家庭もありますが、デザインが古くなり、使わなくなることもあるので、そんな時は、集めて神社などで燃やして供養(くよう)します。
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役割を終えたひな人形をアレンジして作られる「福よせ雛」。スノーボードでかっこよく雪山を滑り降りたかった?(古裂美術工房提供)
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人形たちも、新聞を読みたかったはず。ユニークな「福よせ雛」は、各地の町おこしや展覧会で活躍中だ(古裂美術工房提供)
近年、日本では、そういったひな人形を使って町おこしをする行事が各地で盛んになってきています。東京の南東、房総半島の千葉県勝浦市では毎年、「ビッグひな祭り」という行事を毎年開いています。町中にひな人形を展示したり、子どもたちがパレードするイベントの中でも目玉となっているのは、神社の60段もある階段に1200体もの人形を飾る巨大ひな壇飾りです。ひな人形は、夕方からきれいにライトアップされるなど、たくさんの観光客を楽しませています。
一方、家庭での役割を終えた人形たちをひな壇から下ろして、オートバイやスノーボードに乗せるなどのユニークなアレンジを加える「福よせ雛」を展示する市や町も増えています。家庭のひな人形は、手に取って遊ぶものではなく、ずっと正しい姿勢で飾られてきました。その人形たちが買い物をしたり、新聞を読むなど普通の暮らしをするのを見るのは、まるで第二の人生を楽しんでいるようで、ほのぼのとした気持ちにさせられます。
冬を終えた日本には、ひな祭りとともに暖かい春がやって来ます。
(2013年2月更新)