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ハイテクジャパン

世界最高峰のソーラーカー


パート2

日本の技術の固まり

 東海チャレンジャーは、全長約5?、幅約1・6?、高さ約1?、重さは134??で、普通の乗用車の10分の1程度の軽さです。1人乗りで後輪駆動(こうりんくどう)の3輪車です。その姿は普通の乗用車のイメージとは全く異なり、太陽光をたくさん吸収するための太陽光パネルを取り付けた一枚の板が走っているようです。


ドライバーが乗り込むコックピット ドライバーが乗り込むコックピット ドライバーがやっと乗れるほどの広さしかないコックピット ドライバーがやっと乗れるほどの広さしかないコックピット

 では、日本のソーラーカーはなぜ強いのでしょう。その理由を、日本のソーラーカー研究の第一人者で、このチームを指導する東海大学の木村英樹(きむら・ひでき)教授は「ソーラーカーは、日本のテクノロジーの固まりです」と説明しています。日本はモノづくりが得意な国ですが、その日本の技術を存分に生かして造っているのです。


車体には世界トップレベルの変換効率を誇る日本製の太陽光パネルが取り付けられている

車体には世界トップレベルの変換効率を誇る日本製の太陽光パネルが取り付けられている

 太陽光パネルは、2010年までは宇宙船などに採用された変換効率30%の高性能な化合物太陽電池でした。しかし、11年大会からは、大会主催者が手に入りやすい素材を使うよう規定を厳(きび)しくしたため、汎用性と耐久性が高く、住宅用屋根に装備されるシリコン太陽電池を使用しています。この汎用パネルの変換効率は22%にとどまりますが、それでもシリコン太陽電池では世界トップクラスです。


ソーラーカーの動力であるモーターも日本製

ソーラーカーの動力であるモーターも日本製

 使っているモーターの効率を非常に高くしているのも特長です。太陽光パネルで変換された電気は、97%まで駆動力に変えることができます。この部分でロスになる電気は3%しかないという世界最高水準の効率です。


 車体も日本が得意な技術である炭素繊維(たんそせんい)でできています。炭素繊維はほとんど炭素だけでできている繊維で、特長は軽くて強いこと。宇宙分野や航空機の胴体や主翼(しゅよく)、尾翼(びよく)などの構造材料、スポーツ分野など広範囲な用途に使われていて、日本の炭素繊維生産は品質、生産量ともに世界一です。その軽くて丈夫な炭素繊維で造った車体ですから軽量化を図ることができました。


 また、電気を貯める高容量軽量なリチウムイオン電池は、15並列30直列にすることで、太陽電池出力の3時間45分に相当するエネルギーを蓄えますし、塗装の重さを少なくするための薄いフィルムを張るなど、日本の先端技術が詰まっています。


航空機などに使用されている、軽くて丈夫な日本製炭素繊維で造ったボディー(東海大学提供) 航空機などに使用されている、軽くて丈夫な日本製炭素繊維で造ったボディー(東海大学提供) ノートPCなどに使用されている高容量・軽量・安全性を兼ね備えたリチウムイオン電池を搭載(東海大学提供) ノートPCなどに使用されている高容量・軽量・安全性を兼ね備えたリチウムイオン電池を搭載(東海大学提供)

気象情報も活用

 東海チャレンジャーの強さは、車の性能だけではありません。オーストラリア大会は日本の気象衛星「ひまわり」の守備範囲で、その情報を最大限生かしました。高精細な衛星画像を利用したほか、可視光や赤外線など5種類のセンサーからの衛星画像を処理し、雲の厚さなどを推定し、日射量をほぼリアルタイムで把握しました。曇り空の向こうに晴れ間があれば一気に走り抜け、曇天が先行き続く予想なら低速で走行するなど、気象情報も活用しました。


 東海大のチームには日本人ばかりでなく、太陽エネルギーを研究するサウジアラビアの留学生も南ア大会のメンバーに入っていました。また2人の女子学生も含まれ、女性ドライバーとして初めてトップでフィニッシュしました。東海大チームは日本の技術、学生たちのチームワークを基盤(きばん)にして、2013年には実用性の高い4輪車の開発を進める予定です。


東海大学チャレンジセンターのライトパワープロジェクトチーム(東海大学提供)

東海大学チャレンジセンターのライトパワープロジェクトチーム(東海大学提供)

 日本では電気自動車が普及し始めていますが、太陽光を利用した車を実用化するのは、まだ先のことになりそうです。しかし、こうしたレースでたくさんの知見を集め、それを実用化に向けてフィードバックすることが大切です。その技術開発の先に、地球環境を維持できるソーラーカーの実用化が待っています。

(2013年1月更新)