ピラミッド内部で図面を広げながら、ミュー粒子の検出器を設置する、名古屋大学の森島邦博特任助教ら(研究チーム提供)
エジプトにあるピラミッドを知っていますか。四角錐の巨大な建物で有名な遺跡なので、テレビや新聞で1度は見たことがあるでしょう。でも「中はどうなっているの?」「どうやって造ったの?」と尋ねられても、恐らく答えられないでしょう。なぜなら、正しい答えが見つかっていないからです。有名な遺跡なのに実は謎だらけなのがピラミッドです。そうした中、日本の研究者たちが今、最新技術で古代のミステリーを解明しようとしています。
エジプトの首都カイロ近郊ギザのピラミッド前で、ミュー粒子の装置をセットする名古屋大学の森島邦博特任助教(素粒子物理学)が参加する研究チームのメンバー(研究チーム提供)
壊さず中を見てみよう
名古屋にある大学の研究者が方法を考え、ピラミッドの内部を探る調査を日本やフランスの国際チームがしています。ピラミッドは人類の財産ですから壊して調べることができません。そこで宇宙空間を飛び交い、地球にも降り注いでいる「宇宙線」という極めて小さな粒子を利用します。「宇宙線」が地球の大気に衝突すると、さらに小さな粒子に分かれます。その中に「ミュー粒子」と呼ばれるものが発生します。ミュー粒子は1平方メートル当たり、毎分約1万個、地上に降り注いでいます。ミュー粒子には「いろいろな物質を通過するが、密度の高い物にぶつかると通り抜ける数が減る」性質があります。ピラミッドに降り注ぐミュー粒子の数を観測し、どのぐらい減ったのかを調べると、石が詰まっているのか、空洞なのかが分かる仕組みです。
ミュー粒子は、物質の中で、最も小さいものの一つで、宇宙から降り注ぐ宇宙線が地球の大気に衝突した際に生まれます
ギザにあるクフ王のピラミッドではこれまでに「王の間」と呼ばれる部屋などが見つかっています。日本の大学の研究チームは2016年10月、ミュー粒子の観測から、他にも空間の存在を確認したと発表しました。研究チームは、少なくとも1本の通路が中心に向かって作られている可能性がある、と考えています。ただ、大きさや形は明らかになっておらず、観測点を増やしたり解析方法を改良したりして調査を続けています。新たな空間が具体的に分かれば、大発見になるでしょう。
ギザにあるクフ王のピラミッド(左)とカフラー王のピラミッド
既に見つかっている空間にミュー粒子を観測するフィルムを置きます
空から撮影してみよう
もう一つ紹介したいのは、ピラミッドがどうやって造られたのかを探る調査です。ピラミッドの建造方法には、まっすぐな坂道を造り、石を運び上げたとする「直線傾斜路」説とピラミッドを取り囲むように坂道を整備したとする「らせん傾斜路」説があります。しかし、ピラミッドがあまりに大きく,その正確な形や大きさが分かっていないため、こうした考え方が正しいか証明されていませんでした。
名古屋の同じ大学の別の日本人研究者のチームは、ピラミッドの形や大きさを正確に図って図面を作り、ピラミッドの建造方法を再検討しようとしています。
正確に測るために、位置情報や形を計測できるレーザースキャナーと無人機(ドローン)を使います。空からもピラミッドを撮影して3次元的に測量図を作ろうとしているのです。2017年2月には、日本のテレビ制作会社と協力して世界で初めてクフ王のピラミッドをドローンで細かく大量に撮影しました。
クフ王のピラミッド。手前左はスフィンクス
ピラミッドをレーザースキャナーで計測する名古屋大学の河江肖剰共同研究員(考古学)の調査隊メンバー=カイロ郊外アブシール(チェコ・エジプト学研究所)
クフ王のピラミッドを撮影するドローン(テレビマンユニオン提供)
写真や計測データを基に3三次元的に復元されたクフ王のピラミッドの画像(テレビマンユニオン提供)
最新デジタル技術を使った研究チームの正確な測量図により、これまで確信が持てなかったピラミッドの造られ方が明らかになるかもしれません。
古代のミステリー解明を求めて、最新技術を用いた日本人研究者の挑戦が続きます。
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