その後、もっと早く食べたい、もっと早く酸っぱくしたいという要求に応えようと、発酵を促す糀や酒などを加えるようになった。こうすれば、発酵時間をより短縮できる。このタイプのすしは江戸時代の初め(17世紀初め)に花を開かせる。糀を混ぜる秋田県のハタハタずしや石川県のカブラずし、酒を混ぜる鹿児島県の酒ずしなど、現代に残っているものも多い。
やがて、すしには酢が使われるようになる。当初は、酢を使っても数日間は発酵するのを待たなければならなかった。だが、次第にその期間が短くなり、1800年頃にはわずか1日程度になる。発酵させるよりも、酢が持つ酸味をそのまま生かす「すし」が生まれたのだ。
こうして、すしはいろいろなバリエーションが可能になった。たとえば、魚をそのままの形ですしにし、腹にすし飯を詰めた姿ずし。魚をおろし身にしてすし飯を巻いた棒ずし。棒ずしとは逆に、すし飯で具材を巻いた巻きずし。薄切りにした豆腐を揚げた油揚げに、すし飯を詰めた稲荷ずし。すし飯の上に具材をのせて箱に入れ、抜き出して小さく切る箱ずし。ここからはちらしずしも生まれた。これは箱ずしの中身をスプーンですくい出し、ちらしたすしで、他のすしとは違い、すし飯を固めない初めてのタイプである。
そして1830年頃、江戸の街で握りずしが生まれる。すしの世界では最も遅い発明であったが、握りずしはあれよあれよという間に世を席捲し、今や世界に誇る日本料理にまでなってしまった。ただ、握りずし以外のすしも案外たくましく、現在、各地の郷土料理として地方文化を支えている場合も多い。すし、おそるべし、である。