工場の一隅にずらり並んだ大袋。中には、使われなくなった携帯電話や、取り外されたICチップ、パソコンのマザーボード、電子部品などがぎっしり詰まっている。一見したところは、ゴミの山。だが、驚くなかれ。袋の中身はそのまま、1tあたり数百gもの金を含む、超高品位の「金鉱石」なのである。
金は、その多くが地金や宝飾品となる。しかし一方で、電機・電子産業が発展するにつれ、まず部品のメッキ薬品などに加工され、やがてICチップの電極表面や電極間をつなぐワイヤに、そして記録媒体表面の蒸着膜などに、大量の金が用いられるようになった。
独立行政法人物質・材料研究機構の原田幸明博士は、これらを含め、さまざまな形で蓄積された金は、「日本国内に、現在6800t」と試算した。その量は世界の金の埋蔵量の16%にあたり、世界最大の産金国、南アフリカ共和国の埋蔵量をも超えている。
その金をはじめ、製品や部品として日本国内に散在する金属や貴金属、レアメタルを回収し、精錬して再利用しようというのが、「都市鉱山」構想だ。鉄や銅はもちろん、各種貴金属やレアメタルの使用量が、今後もこれまでと同じように増え続ければ、石油同様、いつか枯渇することが避けられないためである。
その「都市鉱山」構想を先取りし、金や銀や白金、パラジウムなどの貴金属、レアメタルでは、金属精錬会社などがすでに「回収リサイクル事業」を始めている。冒頭で紹介した工場では、1tあたり500g以上の金が含まれる「金鉱石」を化学処理や電解処理をするなどして、純度99.99%の金をつくりだしていた。
ただし「都市鉱山」実現までの道のりは決して容易ではない。たとえば毎年数千万台出ているはずの「使われなくなった携帯電話」で、回収されているのはわずか3分の1。原田博士ら資源・材料の研究者たちが語るように、まずは「家庭や会社、工場から廃棄された機器や廃棄物を回収し、そこから基板やICなどの有用物を取り出すという、『都市鉱石』を採掘する産業の育成が急務」なのである。