菱刈鉱山のような大金鉱山が、なぜ1980年代に至るまで発見されなかったのか、ほかにも未発見で残された大金鉱山がないかと、その構造や成り立ちの研究が進められていた。その研究者の一人、独立行政法人産業技術総合研究所の渡辺寧博士は語る。
「佐渡や鴻之舞が1000万年以上前に形成された金鉱山なのに対し、菱刈の金鉱床は、約100万年前という、地質学的には非常に新しいものです。そのため鉱脈が地上に露出しておらず、発見が難しかった。ただ、菱刈型のいわゆる『浅熱水性金銀鉱床』には、目印があります。まず、火山帯でマグマが上昇し、マグマに含まれる金や銀が溶け出した熱水をつくる。その熱水がさらに上昇すると沸騰して温度が下がり、成分を沈殿させて鉱脈をつくりますが、この時、鉱脈上部では熱水が周囲の岩石と反応して変質鉱物ができる。この変質鉱物が、目印になるんです」
「浅熱水性金銀鉱床」にはもうひとつ、わかりやすい目印がある。「温泉」だ。近年の研究で、「塩素が多く含まれ、pHでいうと中性の温泉が出る地域」(渡辺博士)の地下深くに、浅熱水性金銀鉱床のある可能性が高いことがわかってきた。菱刈鉱山からも、条件に合う65℃の温泉が湧く。日本は世界でも有数の温泉国。ならば、まだ数多くの金鉱が地底に眠っていることになる。
研究で得た知見から、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が探査を行ってきたが、採鉱製錬コストの高い日本で利益が出るほどの金鉱脈は、菱刈以外まだ見つかっていない。今後の探鉱技術や採掘技術の、一層の進歩が待たれる。
さらに近年では、日本列島周辺の深海底で熱水鉱床の発見が相次ぎ、鉱脈の分布や構造の調査が進められてもいる。