日本人で嫌いな人がいたら、お目にかかってみたい。そう思えるほど、「プリン」は日本の老若男女にこよなく愛されているお菓子だ。ひとさじ口に含むや、卵と牛乳のコクのある甘みに、ほろ苦いカラメルがからまり、舌の上でなめらかにとろけていく。作り方は、卵と牛乳、砂糖を混ぜ、カラメルソースを敷いた型に流して加熱し、冷やすだけ。型から抜くと、語感の通りプルッとしてつややかな姿が現れる。
 家庭で手づくりするお母さんも多いが、店では、容器にスプーンを入れてそのまま食べるタイプが売られている。プリンも、特産地の卵や牛乳を使ったもの、やわらかいクリーム状のもの、抹茶や黒ゴマを入れた和風のものなど、多様化を極めている。たかがプリン、されどプリンなのだ。
 プリンの語源は、イギリス料理「プディング」からきている。プディングは、16世紀末の大航海時代、船上で残り物のパンくずや小麦粉、ラード、卵などを合わせて蒸したのが始まりという。その後、パンや果物を入れたさまざまなプディングや、卵液だけを固めた甘いカスタード・プディングが生まれたのだろう。
 プディング類が初めて日本に伝わったのは、1860年頃と思われる。横浜にイギリス人経営のホテルが誕生し、そこで他のいろいろな西洋料理とともに、プディングがつくられたのではないかと想像できる。日本ではその中で、カスタード・プディングだけが定着したというわけだ。
 東京・銀座の老舗として100年以上の歴史を持つレストラン、資生堂パーラーのメニューにプリンが加わったのは、1931年。当時から、アイスクリームや果物で彩りよく飾ったプリンをプレートで出しているが、「プリンだけ食べたい」という客のリクエストにも応じる。
「材料は、卵と牛乳、砂糖、香料のバニラ、これだけです。卵黄と卵白の割合は6対1。コクのある風味を生かすために、やわらかすぎない、しっかりした舌触りのプリンにしています」
 飲料長の橋本和久さんがそう話すとおり、名店のプリンは、昔ながらの懐かしいおいしさにあふれている。
 最近では、洋菓子店はいうに及ばず、スーパーマーケットやコンビニエンスストアにも、あらゆる種類のプリンが並んでいる。高級なプリンはもちろん格別だが、安いものもそれなりにおいしい。そんなところも、プリンの人気の秘密かもしれない。

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