銀山の遺構に続く大森の町並みは、50年ほど前から町の人によって大切に保存・復元されてきたため、まるで銀山が栄えた400年前にタイムスリップしたかのようだ。役所や、武士の屋敷、商家だった建物、寺社などが昔ながらの姿で、多く残されている。この地方特産の赤い石州瓦の屋根が続き、独特の景観をつくりだしている。町一番の豪商だった熊谷家の住宅では、豪華な調度品や屋内の装飾などの見学ができ、銀で潤った豊かな時代を偲ばせる。
町には、銀行や郵便局など、日常生活に必要な建物もあるが、どれも古い町並みにとけ込むように配慮されている。昔の家屋を改造したカフェや商店もあり、食事をしたりおみやげを買ったりと、散策するのが楽しい。
翌日は、銀山地区と外部を結んだ銀山街道を通って、温泉津へ行った。ここは1300年前から続く温泉町であると同時に、石見銀山の外港として、銀の積み出しや鉱山経営に必要な物資の水揚げに、重要な役割を担った港町でもある。ここにも古い町並みが残り、ひなびた温泉街になっている。温泉の湯は、茶褐色に濁っていて、鉄分と塩分が豊富な温泉は体の芯まで温まり、冬でもなかなか汗がひかない。
宿泊した旅館の「ますや」は20世紀初頭に旅館業を始めるまで、海運貨物の仲介を取り仕切る廻船問屋だったという。料理は、旬の蟹をメインに、刺身や鯛の塩焼き、蛤の塩味の吸い物など、海の幸をごちそうになった。飲むのは温泉津の地酒「開春」。かつては銀を運ぶ労働者たちを酔わせていたのだろうか。味はあるのにスッキリしていて、キレがよい。なかなかの良酒であった。