微生物が造る複雑な香りと味わい
日本酒が、世界中のいかなる酒にも卓越する誇るべき第二点は、カビ、酵母、細菌という、自然界の三大微生物を駆使しながら、巧みに酒を造るという点にある。ビール、ウイスキー、ブランデー、ウオツカ、ジン、テキーラ、ラムなど、どんな名酒を造るのにも、そこに使われる微生物は酵母だけだが、日本酒は麹菌で麹を造り、乳酸菌で酒母を安全に導き、酵母によってアルコール発酵を行う。この三大微生物の応用は、日本酒を創造した日本人の、世界に冠たる偉大な知恵である。
日本酒が世界に誇る第三点は、酒を造りあげる成分の複雑さである。香気成分、うまみや甘さなどの成分、色の成分の全てを合計すると、なんと600成分以上にもなり、このことは日本酒の香味が他酒に例をみないほど独特のものであることを示している。ウイスキーやブランデーは、平均して400成分程度、ビールやワインが500成分前後だから、日本酒だけが断然多い。日本酒はそれほど緻密で、きめ細やかな酒なのである。