世界一強い酒

 ところで日本酒には、世界の酒と比べて、驚嘆すべき事実がいくつかある。その第一点は、世界一アルコール度数が高いということだ。こう言うと多くの人は「いや、ウイスキーやブランデー、焼酎や中国の茅台酒の方がずっとアルコール分が高いはずだ」と反論するだろう。確かに、これらの酒は、日本酒の2倍も3倍もアルコールは強いが、それは人の手で「蒸留」し、アルコールを濃縮しているからだ。蒸留工程前のウイスキーもろみには6%、ブランデーもろみでさえ10%、茅台酒では5%前後のアルコールしか含まないが、日本酒もろみのアルコールでは実に22%にも達するのだから、他の酒がいくらがんばっても、日本酒には遠く及ばないのだ。
 では、なぜ日本酒だけが高濃度のアルコールを含むことができるのか。その理由はまず、日本酒醸造の最大特徴である麹菌の利用にある。麹菌が蒸した米の上で繁殖して米麹になる時、特殊で微量の複合たんぱく質(脂肪とたんぱく質が結合した脂質たんぱく質)をつくるが、この成分はアルコール発酵を司る酵母に強い活性を与え、いつまでも発酵を持続させることができるのだ。
 もうひとつの理由は、麹菌の酵素が原料米のデンプンを分解してブドウ糖をつくる、いわゆる「糖化作用」と、酵母による「アルコール発酵」とが、もろみの中で同時に平行して行われる(平行複発酵)ためであり、この発酵方式により、アルコールは、毎日、じわりじわりと増え続け、ついに20%をも突破するのである。

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