酒は、人類が造った嬉しい文化のひとつである。どんな民族もたいていこの文化を持ち、人びとはそれに誇りと憧れ、親しみとロマンを寄せながら長い歴史を育てあげてきた。日本人も、大昔から、主食の米を原料とし、名水を仕込み水とし、気候風土を巧みに利用しながら麹菌による「日本酒」を造りあげてきた。幸いにしてこの国は、四方を海に囲まれた、東アジアの最東部に位置する「陽の出る島国」であり、その上、近世までの長い間、外国とは政治的、経済的、文化的にも断絶に近い状態でやってきたので、日本酒は他文化の影響を受けることなく、日本人独自の手によって思いのままに育てられてきた。その意味において日本酒は、「日本人による日本人のための酒」ということができる。

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