鼎では、随時50種類以上の肴が用意され、壁には毛筆でしたためられた「本日のおすすめ」の紙が貼り出されている。どれもこれも旬の素材を使い、酒の味を引き立てるように調理された、おなじみのメニューばかりだ。夏は、アジの刺身に冷酒、秋はサンマの塩焼きに新酒、冬は、鍋ものに温かい燗酒……といったように、季節の料理にあわせて酒を選んでみるのも楽しい。

 今から20年くらい前までは、居酒屋といえば男性客のものだったが、女性の社会進出にともなって、女性客も当然のように増えた。酒と肴を楽しみながら、仲間と、時にはお店の人たちと話に花を咲かせる。夜がふけるにつれ、和やかな雰囲気がぐんと高まっていくのが、いい居酒屋の常だ。

 居酒屋は、胃袋を満たすための単なる飲み食いの場とは違う。慌ただしい職場や家庭を離れ、ゆっくりと落ち着いて本来の自分に戻る場でもあるのだ。そんなひと時を求めて、昔も今も人は居酒屋ののれんをくぐる。

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