東京・国分寺市にある(財)鉄道総合技術研究所。広大な敷地には740mにもわたってレールが敷かれ、実験用の車両が走る。最新の車両技術から情報システム、乗客の心理学に至るまで、鉄道をあらゆる角度から研究する、日本唯一の総合研究所だ。

中国出身の陳樺さん(45歳・写真左)と金鷹さん(44歳・写真右)は、この研究所で軌道力学を研究している。二人とも中国の大学を出て日本の国立大学大学院に留学し、その後研究所に就職した。研修生などではなく、研究所になくてはならない重要な研究スタッフなのだ。

彼女たちの研究内容は、レールと車輪の間における力学について。例えば、車両を高速で走らせた時、車輪の滑り具合とレールの摩擦力がどう関わるかを調べる。あるいは、レールの磨耗を防ぐための対策を考える。いずれもまず、コンピュータを使って数値予測をしてから、実際に室内の模擬試験機で検証する。彼女たちが作業服に身を包んで得るデータが、鉄道界の財産になっていくのだ。

「充実した研究設備があるからこそ、できることです」と二人は口を揃える。

「日本では、ひとつの課題に対して、チームワークで解決策を導き出します。それぞれの分野の研究者たちが力を合わせて考える。その仕組みが素晴らしいと思うんです」

と陳さん。中国では、ロケットの設計や製造を専門としていたが、世界の鉄道をリードする研究所の研究体制と環境に惹かれ、鉄道の分野に転身した。一方の金さんは、もともと金属やセラミックなどの材料の専門家。

「日本では、材料から部品、製品まで、しっかりと統一された工業標準の規格があります。だから、この研究所での研究結果が、さまざまな鉄道会社と共有できる。私たちの努力が多くの人の役に立っていると思うと、とてもやりがいがありますね」

日本での生活環境について尋ねると、「何ひとつ不自由はありません」(陳さん)、「生活は、日本が一番です!」(金さん)と、絶賛の声。

二人はそれぞれ、研究所から歩いてわずか1分の社宅に、中国人の夫と子どもと共に暮らしている。勤務はフレックスタイム制なので、家事や子育てとの両立がしやすいという。

「いろいろなことに恵まれて、本当に安心して研究に打ち込めるんです」

と語る陳さんに、金さんがうなずく。

「日本人は、本当に親切で丁寧です。例えば、空港や駅、鉄道の車内では、アナウンスが行き先や乗り換えをちゃんと教えてくれる。迷ったら駅員さんが道案内してくれる。私は成田空港に着くと“おかえりなさい”と言われているようでホッとするんですよ」(笑)

ちなみに、金さんが愛用しているのは通信販売。電話一本で食料から衣服まで届けてくれることが、働く主婦である彼女にとって救いだという。

鉄道の「安全性、快適性の追求」が研究所のテーマだが、日々の生活の中でも彼女たちはそれを実感しているようだ。

「日本の鉄道は、保守・点検を重視しています。お客さんの命を預かるわけですから、安全が第一。世界中の鉄道がそうあって欲しいと思いますね」(金さん)

日本の、そして世界の鉄道の未来は、彼女たちの研究によって着実に切り開かれていくことだろう。

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