「べんとー」「弁当ーッ」……。首から売り箱を下げ、ホームで弁当を売り歩く立ち売りの声は、日本人にとって旅情を誘う懐かしい響きがある。列車の車内販売に押されて、その声を聞かなくなって久しいからだ。東北本線の宇都宮駅は、弁当の立ち売りが残っている数少ない駅のひとつである。
「宇都宮は駅弁発祥の駅だからね。体力が続くうちはやめられないよ」と言うのは、立ち売り一筋50年、今年68歳になる、松廼家の坂本秀浩さんだ。この駅で弁当がつくられたのは1885年。若い頃は1日に1000個も売ったそうだが、今は売れて40〜50個だという。「おじさん、いつまでも元気でね」。そんな客の優しい声が励みと笑った。