私が初めて沖縄を訪れたのは学生時代である。その時から、サンゴ礁の色合いの素晴らしさと、海の中で出会う生物の多様さ、そしてその密度に圧倒されてきた。以来、沖縄の海の魅力に引き寄せられるように、毎年各地の島々に30年以上にわたって通い続けている。
日本の西南端に位置する沖縄県は、沖縄諸島はじめ宮古諸島、八重山諸島など多くの島々からなっている。このような琉球列島を境に、東は太平洋、西は東シナ海に分けられ、島々に沿って太平洋を暖かい潮が流れ、黒潮が北上している。島々の周辺の海中には、世界有数のサンゴ礁が広がり、暖かな海で多様な生き物が棲息する。美しいサンゴ礁の海中景観で世界に知られる慶良間列島なども、この沖縄諸島に含まれている。
このような沖縄で見られる大規模なサンゴ礁は、近隣の地域はもとより、さらに南の地域でも見られない。これは、沖縄の島々がアジア大陸から離れて連なっていることに関係している。沖縄の海は、大陸から流れ込む土砂や過剰な有機物の影響を受けず、水の透明度が40〜50mと非常に高い。そのため、サンゴ礁を造りだす「造礁サンゴ」の生育に必用な太陽光が海中まで十分に届く。また、大河から流入する淡水の影響が少なく、十分な塩分濃度が保たれる。さらに、水温の高い黒潮によって、高緯度ながら亜熱帯の気候となっている。このようにさまざまな条件が重なり、沖縄の海には多くのサンゴが分布し、大きなサンゴ礁が形成されているのだ。
「サンゴ」と「サンゴ礁」は異なる。東南アジアの大陸沿岸でも「サンゴ」は見られるが、大規模な「サンゴ礁」は形成されない。ちなみに「サンゴ」とは、刺胞動物の一匹ずつや群体の一つずつの生物を指すが、「サンゴ礁」は、造礁サンゴばかりでなく、石灰質の骨格や殻を持つ石灰藻や有孔虫、貝、甲殻類などさまざまな生物が死んで残された石灰質が、長い間に積み重なり、固まってできた大きな地形のことをいう。