マーティ・フリードマンさんは世界的に有名なロックバンド「メガデス」の元ギタリスト。ファンの間では伝説的なミュージシャンなのだが、そんな彼が2003年から日本で暮らしている。テレビの英語教育番組などにも出演し、ロックミュージシャンというより「面白い外国人」として、お茶の間で人気急上昇中なのである。
「日本に興味を持ったのは10代の頃。ラジオで日本の演歌※1を聴いて感動しました。ホント、最高!と思った」
マーティさんはアメリカ、ワシントンDC生まれ。中学生で、もうヘヴィメタル・ロックのバンドを始めた。
「普通のギタリストは、ジャズやプログレッシヴ・ロックから学ぶんですが、僕の場合は演歌でした。美空ひばりや八代亜紀※2の歌声は、感情が伝わってくる。音楽で大事なのは感情でしょ。だからこぶし※3のまわし方をギターで分析して研究したんです」
激しく繊細な彼のギタープレイのルーツは、日本の演歌だったのだ。その後、マーティさんは独学で日本語を勉強する。通信教育の日本語講座を受け、コンサートの移動中など、暇さえあればテキストを読んだ。また日本ツアーの時は通訳を介さず、日本語でインタビューを受けた。ほとんど話せなかったが、「プレッシャーの中に身を置かないと覚えられない」と、挑戦し続けた。
「日本語のチャームポイントは漢字。僕たちアメリカ人から見ると、火星語みたいで、それを読めるのが自分でも不思議な感じ。ひとつ読めただけですごく嬉しくて、それを一回味わってしまうと、もう止められません(笑)」
彼は日本のJポップ※4にも魅せられた。相川七瀬、安室奈美恵、ZARD※5などが「ツボにハマった」という。
「アメリカでは、ヘヴィメタルのミュージシャンは、ヘヴィメタルの音楽だけやる。ところが日本の歌手はハードロックもポップスもR&Bも歌う。なんでもありのジャンルレスなんです。すごく羨ましいと思いましたね」
かくして彼は活動の拠点を日本に移し、日本人ミュージシャンたちとライブ活動やアルバム作りに励んでいるのである。ソロギタリストとしてはもちろん、2006年に発売されたCD「ロックフジヤマ」では、プロデューサーとして制作に携わった。そして日本の有名歌手たちが一堂に集う、年末恒例のNHKのテレビ番組「紅白歌合戦」にも、ギタリストとして出演した。
「音楽に関して僕は完璧主義者。かなり要求が高いですが、日本のスタッフは真面目で器用で本当に信頼できる。譜面も読めるし、リハーサルの前にちゃんと準備できている。アメリカのロックバンドではありえないことだね(笑)」
現在は、東京・新宿に暮らす。趣味は「辛いものを食べること」だそうで、休日には都内のレストランやラーメン屋で激辛メニューを食べ歩く。ちなみに彼の口癖は日本語で、
「それ、いいじゃん」
いいと思ったら、素直にほめる。その開かれた感性で、国境を超えた新たな音楽を私たちに届けてくれるだろう。