現代数学の理論から折紙を作る


「折紙作品を開いて折り目を見てみると、たくさんの多角形からできていることがわかります。つまり、折紙は、多角形をつなぎ合わせた、多面体の一種と考えることができる。数学の言葉でいうと、多面体は『二次元多様体』。折紙を、多様体として考えると面白いんじゃないか……僕の折紙はそこから始まったのです」

そう語る折紙作家・東秀明さん。東さんは、東北大学の理学部数学科で幾何学を専攻し、修士課程を終えるまでの7年間、ひたすら多様体論の研究に打ち込んだ。多様体は、幾何学だけでなく、現代数学全体の中心的な研究対象だ。家庭の事情で故郷の奈良に戻ってから、ふと幼い頃に読んだ折紙の本を目にした。そのとき、東さんの頭の中で、「多様体」と「折紙」がつながったのである。

そんな東さんの折紙へのアプローチは独特だ。

「一般的な折紙では正方形の紙を使うが、長方形の紙ではどうか。普通の線対称ではなく、点対称の図形になるように折ってはどうか。また、展開図を見たとき、直角三角形の連続になるのが当たり前だが、それ以外の三角形に変えても、折紙として成立するはずだ……」

試行錯誤の末、制作されたのが右の「螺旋」に始まる作品である。

東さんは、自分がやってきたことは、「作品を、自分の頭の中にある多様体のモデルに近づけること」だと表現する。

「折る角度が決まれば、最終形は自動的に決まってきます。途中で角度や折り方を変えることもできますが、恣意性を介在させることはどうも感覚的に好きじゃないんです」

その作品の不思議な美しさは、東秀明という折紙作家があくまでも数学研究者であることに由来しているようだ。


東さんのブログサイト(英語版)http://fine.ap.teacup.com/foldings/

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