どじょうは、流れが少なく泥が深い場所にすむ淡水魚。体が細長く、皮膚がぬるぬるしているところはうなぎに似ている。体長は約12pと小さく、口ひげを生やしたユーモラスな顔が特徴だ。かつては水田や小川でよく獲れたが、農薬の汚染や耕地の区画整理が原因で天然のどじょうが激減してしまった近年では、もっぱら養殖や輸入に頼っている。

日本では古くから食べられていたが、庶民の魚として最も親しまれたのは、江戸時代(17〜19世紀)。この頃に考案された、さまざまなどじょう料理が味わえる「駒形どぜう」を、東京・浅草の町に訪ねた。

東京に数軒残るどじょう専門店の中でも、ひときわ江戸情緒を色濃く残す同店の創業は、1801年。木の引き戸を開けると、江戸時代の居酒屋を思わせる座敷に低い机と座布団が並び、いかにも古風なしつらいだ。どじょうの丸煮を味噌汁に入れた「どじょう汁」、開いたどじょうと細切りのゴボウを卵でとじた「柳川鍋」もうまいが、丸のままのどじょうを存分に味わうなら、やはり「どじょう鍋」がおすすめだ。

注文とともに、まず炭火がおこった小型の火鉢が運ばれてくる。その上に、下煮したどじょうが並ぶ浅鍋がかけられ、手元にネギを大盛りにした薬味箱と割り下(ダシ汁)の土瓶が置かれる。このネギを、どじょうの上にどっさりかけて煮えるのを待つ。一度火を通してあるので、汁がふつふつと煮えてきたらすぐに食べられる。好みで七味唐辛子やサンショウの粉をかけ、汁が煮詰まってきたら、土瓶からつぎ足す。

軟らかく煮えたどじょうの身は口の中でほろほろとくずれ、骨も頭も違和感なく食べられる。川魚特有のくさみはなく、淡白であっさりした味わいだ。濃厚な味のうなぎが飯に合うのに対して、どじょうの淡白さは日本酒との相性が抜群である。どじょう鍋で酒を飲み、最後は甘めの味噌で仕立てたどじょう汁とご飯で仕上げると、どじょう料理の魅力を味わいつくせる。

店先には、「神輿まつ間のどぜう汁すすりけり」の句碑が立つ。この句を詠んだ久保田万太郎(1889〜1963)は浅草育ちで、下町の情緒を戯曲や俳句に描いた名手であった。5月半ばに浅草神社で開かれる三社祭では、神輿をかつぐ大勢の人で町中が活気づく。同じ初夏の季節、産卵期で骨が軟らかくなり、味が乗ったどじょうもまた、旬を迎える。

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