石原 大人がかわいいという言葉を平気で使えるようになったのは、そう古い話じゃないですよね。大人の女性が、何でもかんでもかわいいと言ったり、社長のメガネがかわいいとか、上司のぽっこりと出たおなかがかわいいとか言ったりして、それが年上の男性に対するほめ言葉になったのは、ここ10年くらいのことだと思うんです。
菅野 自分がかわいいと思ったものを、素直にかわいいと言ってもいい状況ができた。たぶん「心で思っても口には出さない」という美意識や価値観が決壊したんですよ。
石原 なるほど。昔は年上や目上の人に対してかわいいと言ってはいけないという価値観があった。言いたいけど我慢していたわけですよね。なぜ我慢していたんでしょう?
オバタ 人間は基本的に成長しなきゃいけない、という考え方や社会的圧力がある。その背景には、経済的に豊かになろうという目標も並行してあるわけです。ところが、日本がある程度豊かになってしまったとき、今以上に成長しようという積極的な動機付けが弱まってしまった。そういうことに関係があるのかもしれない。
石原 それはサラリーマンの世界でも似たようなことが言えますね。いくつになっても、みんなそれぞれが成長していかなきゃならない。それなのに最近は、いつまでも若々しいままということが、大事にされたり、価値のあることだとされたりしています。