石原 かわいいの利用法として、何でもかわいいと言えば誉めたことになるというのと、自分自身が若く見えるとか、大人になることを拒否できるというのがある。そういうかわいいの用途があれこれ発明されていって、ここまで広がっているようにも見えます。
オバタ 日本の場合、誰かがかわいいと言ったら、それに同意しないといけないという同調圧力が働くんですよ。
石原 そんなとき、かわいいという言葉は便利だと思いますね。美しいという言葉には反発することがありますが、かわいいなら許せる。本当はそんなに同意していなくても、自分の胸が痛まないというところがありますね。
オバタ 何かに向かってかわいいと言ってしまえば、批判する必要がない。それから経済が豊かになったとき、かわいいは消費を促すための装置になっている。
菅野 みんな同じものを持ち始めてしまったから、あとは何で区別するかというと、かわいくするかどうか。だから、かわいい花の絵がついた電気製品や、女性向けのかわいい車が出始めた。
石原 そういえば1987年頃、日産のBe-1などのかわいい車が出て話題になった。本来、かわいいとか、かわいくないとかに関係のない商品にまで、かわいいという付加価値をつけるようになったんです。
オバタ 結局、かわいいという衣装をまとう以外に、あらゆる業界で商品の差別化が難しくなった。たぶんそう言えるんじゃないかな。かわいいという魔法の言葉があって、そこからさらに「エロかわいい」※5とか「キモかわいい」※6とか、活用が増えている。この世のあらゆるものは「○○かわいい」という言い方ができる。かわいい最先端国の日本では、今そこまできているんじゃないですかね。