卵をたっぷり使った甘いパンケーキのような皮の間に、アズキを煮たさらに甘いあんが詰まっている。「どら焼き」の皮が、こんがりとキツネ色に色づいて香ばしいのは、生地に水やはちみつが入っているから。そのふんわりとした皮と、やわらかく煮たアズキあんが一体となり、口の中になんともいえないおいしさが広がる。そして品のいい甘さにつられて食べ終われば、結構お腹が落ち着いてしまう。おやつとしては、かなり食べごたえがある一品だ。

東京でどら焼きと聞いて、まず挙げられるのが、老舗の和菓子店「うさぎや」。上野の町で長く営業を続けてきたご主人の谷口拓也さんにたずねると、「このお菓子が、いったいどこでできたかは明らかになっていませんが、当店では1927年頃から、現在のようなお菓子として売り始めたようです」と話してくれた。

「『どら焼き』という名前の由来も、銅鑼(青銅でできた円盤状の打楽器)を連想させるから、または、銅鑼の上で焼いたからと、二つの説があるといいます」

お店がある上野の周辺は、今も下町情緒が色濃く残り、和菓子の老舗も多い。これらの店の名物には、きんつば(薄い小麦粉の生地であんを包んだもの)や、団子(粉をこねて丸め、蒸したもの)など、安くて満腹感が得られるような菓子が多く、どれも庶民文化が花開いた江戸時代に生まれている。どら焼きも、そんな庶民的なお菓子の流れをくんでいるのは明らかだが、パンケーキを思わせる皮の作り方から、比較的近年にできたお菓子と推察できる。

関西では、このどら焼きを「みかさ」と呼ぶ。これは奈良の観光名所・奈良公園の中にある、月の名所として知られる三笠山にちなんだもの。つまり、どら焼きの丸い形状を、三笠山の上に上がった月に見立てているのだ。

どら焼きは、もちろんお店で買って食べるのがふつうだが、パンケーキを焼き、アズキあんを中にはさめば家庭でも同様につくれる。できたてがおいしいお菓子だから、家庭で再現してみるのもいい。

焼きたてのどら焼きのおいしさを味わってもらおうと、うさぎやではあたたかいどら焼きを売る。しかし、時間が経って皮が少々硬くなっても、「電子レンジで5〜6秒加熱するか、オーブントースターで軽く温めると、おいしく食べられますよ」と、谷口さんが教えてくれた。

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