お客の心をつかむ女将の挨拶まわり

 旅の楽しみのひとつである旅館の食事は、部屋で食べるのが基本。能登の郷土色と季節感が盛り込まれた料理を、客室係が一品一品運んでくる。8〜9品の料理、ご飯、汁物などを食べ終わるには、1時間半から2時間はかかる。サービス向上のため、各階に自動で料理を運ぶ搬送システムをいち早く採用。これにより遠くの調理場との行き来がなくなり、その分、お客をもてなす時間が増えた。また、料理内容も、アレルギー、好き嫌いなどを必ず確認し、当日であろうとすべて対応してくれる。

 夕食の間に、女将が部屋へ挨拶にやってくる。旅館の定番となった女将の挨拶まわりは、加賀屋の先代の女将が始めたものとされている。お客に対する感謝を述べるだけでなく、お客が喜んでくれているか、何か不満はないかを直接聞いたり、女将が気づいた接客上の問題点を客室係に指導したりするための大切な仕事だという。

 さらに「旅館のサービスは上げ膳据え膳が基本です」と女将さんは言う。上げ膳据え膳とは、黙っていても食事が運ばれ、終わったら片付けられるという、旅館のサービスを象徴している言葉だ。一泊二食つきの旅館では、何を食べるか考える必要もなく、出される美味しい料理を楽しめばいい。旅館は、日常の雑事から解放され、すべてを「やってもらえる」場所なのである。しかしその一方、時代とともにお客の求めるものが多様化している、と女将さんは言う。

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