さりげないおもてなし

 穏やかな七尾湾に臨む加賀屋は、4棟の建物からなる客室数245室の和倉温泉随一の旅館だ。大規模な旅館になった今も、昔ながらの「心のこもったおもてなしを大切にしています」と話すのは、女将の小田真弓さんだ。

 加賀屋のもてなしは、お客の出迎えから始まる。チェックイン時間の2時前後になると、続々と宿泊客が到着する。女将さんも着物姿の客室係と玄関に並び、お客を出迎える。ゆっくりくつろいでもらえるよう、加賀屋では部屋への案内、お茶出し、夕・朝食の世話などすべて一室に一人の客室係がつくのが基本だ。

 「お部屋にお通しした後、まず、お菓子と抹茶を、最後に煎茶をお出しします」

 と客室係の花代さん。その後、旅館滞在中に着る浴衣を持ってきてくれる。サイズを聞かれないのになぜかぴったりだ。

 「ご案内の間に丈を判断して、お客さまに合った浴衣をお持ちします」

 そのさりげなさと、5pきざみで用意されているサイズの豊富さは、加賀屋ならではの心遣いだ。

 そして、この間のやりとりのなかから、予約段階では知らされなかった、旅行の目的や要望などを察し、できるだけ希望に沿うよう心がけるのだという。

 「ある男性のお客さまが、生前に加賀屋滞在をご希望だった奥さまの遺影を持ってお泊まりだと聞き、陰膳(故人に供える食事)をご用意したところ、大変喜ばれました」

 思いがけない気配りは心にしみるものだ。

 浴衣に着替えた後、宿泊客は温泉に入って疲れを癒したり、館内のお土産屋を覗いたり、夕食までの時間を思い思いに過ごす。

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