夏涼しく冬暖かに

その一期一会のもてなしを「美」に昇華し、「生き方」にまで高めたのが茶道だといえるだろう。

京都に住むカナダ生まれの武道家ランディー・チャネルさんは、裏千家の準教授で「宗榮」という茶名をもつ茶人でもある。「リラックスして、菓子を食べ、茶を飲むのが茶道」というのが持論だ。

しかし、客はそれでいいとして、主人は最善の思いを込めてもてなしの準備をしなければならない。

「主人のもてなしは、茶事を開こうと思ったときから始まるのです。招待状を書き、道具を揃え、菓子を選ぶ。その一つひとつにもてなしの心が表れていきます」

茶道の“もてなしの心得”ともいうべき千利休が定めた「利休七則」には、こうある。「茶は服のよきように点て、炭は湯の沸くように置き、花は野にあるように、夏は涼しく冬暖かに、刻限は早めに、降らずとも傘の用意、相客に心せよ」と。なんと行き届いた心遣いであることか。

そのとき大切なのが、季節感なのだそうだ。

夏の終わりにランディーさんを訪ねると、床の間の掛け軸の下には、ススキ、テッセン、オミナエシという初秋の花がさりげなく生けられている。すでに、茶室の季節は涼やかな「秋」なのだった。

「一期一会。二度とこの瞬間はやってこないという思いがあるからこそ、客が自然にリラックスできる場をつくるように心を砕く。それが、お茶のおもてなしの心です」

ランディーさんは、静かにそう語る。

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