北海道の南西部に位置するニセコ。スキー場が多く、冬のリゾート地として有名な地域だ。きめ細かい良質の「パウダースノウ」が楽しめるとあって、近年は、南半球を中心とした外国からもたくさんの観光客が訪れている。ここに、年間を通じてアウトドアスポーツを楽しめる『ニセコアドベンチャーセンター』が設立され、人気を集めている。

「ニセコの自然は四季で、というより毎月のように移り変わります。その素晴らしさを多くの人に体験していただきたいんです」

 流暢な日本語で語るのはセンターの創業者、ロス・フィンドレーさん(41歳)。スキーはもちろん、ラフティング(ゴムボートを使っての川下り)、カヤック、サーフィン、そして空手までこなすスポーツマンだ。

 フィンドレーさんはオーストラリア、メルボルン生まれ。キャンベラ大学スポーツ学部を卒業後、スキーのインストラクターとして活躍していた。

「オーストラリアには、日本人留学生がワーキングホリデーでたくさん来ています。彼らは皆、明るくて親切。日本は経済的にも景気がよいと聞き、行ってみようと思ったんです」

 来日したのは25歳の時。北海道のスキー場でインストラクターとなった。そしてモーグルの選手だった陽子さんと出会い、結婚。しかし、冬のスキーシーズン以外の時期は仕事がなく、建設会社で働いて生活費を稼ぐしかなかった。

「ニセコに来る観光客の目的もスキーだけ。ですから周辺のペンションやレストランも、冬だけの営業だったんです。せっかく素晴らしい自然があるのにもったいないでしょう」

 ある日、フィンドレーさんは、ニセコ町を流れる尻別川をカヤックで下りながら、新しいビジネスを思いついた。

「カヤックはテクニックが難しいので、代わりにゴムボートを使って観光客に楽しんでもらおうと思ったんです。これなら夏にも来てもらえますからね」

 早速、ゴムボートを1台購入。自宅を事務所にして、夫人とふたりでラフティングガイドの仕事をスタートさせたのである。するとマスコミにも取り上げられてたちまち評判に。最初の年に1500人が殺到したという。そこで地元のスキー仲間を集めてスタッフを増員。廃校になった中学校の体育館を改築し、当センターの建物を造った。

「ガイドと聞くと、指導しているみたいですが、安全管理という点を除けば “一緒に遊ぼう”という考えでやっています。みんなで楽しまなければ、スポーツは面白くないでしょ」

 現在、センターを訪れる観光客は年間3万人で、ガイドスタッフは総勢80名。マウンテンバイクやロッククライミングなどのサービスも始めている。また、スタッフたちは地元でアウトドア商品の店やレストランを開業し、ニセコはセンターを拠点に、季節を問わず活況を呈するようになった。

「若い人たちが元気になれば、地域も元気になります。みんな一緒に頑張ればいいんです」

 フィンドレーさんは4人のお子さんとともにセンター近くのアパート暮らし。「船長」の愛称で親しまれる彼は、自分の生活より、まず地元の若者に安定した生活基盤をと願っている。mark_ni.gif

close