童子が4本の矢を次々に弓につがえ、的に向かって弓を射る。まさに人間そっくりな動き、表情をみせる「弓曳童子」は、江戸時代末期から明治にかけて活躍した、田中久重によるからくり人形の最高傑作である。

 江戸時代後期(19世紀)に発達した日本のからくりには、祭りで曳き出される山車の上や舞台で奉納芸をする「祭りからくり」、人形芝居の「興行からくり」のほか、室内で鑑賞する「座敷からくり」などがあった。からくり人形の動力は、人が操作するもの、水銀、砂、水を利用したものもあるが、「弓曳童子」などの自動人形は、ぜんまいを使い、数枚のカムに連動する糸によって動かされる。

 この「弓曳童子」の修復を手がけたのが、からくり研究、修復、ともに日本の第一人者である、からくり研究会の東野進さんだ。

「発見当時、保存状態はよかったものの、糸はすべてなくなっていて、弓を射ることもできませんでした」と東野さん。さらに、「分解してみて思ったのは、必要最低限の仕組みで自然な動きや表情をつくり出すのが、田中久重のすばらしさ。中途半端な修復はできません」。弓を射るだけでなく、首の動きなども、自分で鏡を覗き研究しながら、五感を総動員して、何度も微調整を繰り返した。

「日本のロボット技術はいまやトップクラスですが、その礎になった江戸時代の職人たちの技を世界の人たちにもっともっと知ってもらいたいですね」mark_ni.gif

close