『HAL』の研究開発は、1992年頃からの神経系や生体電位信号の処理という基礎研究から出発し、95年頃には基礎実験装置を、97年頃にはプロトタイプを製作した後、HAL-2、HAL-3、HAL-5へと進化を続けた。そして2005年からは、私が代表を務める「次世代ロボティクス・サイバニクス」が大学院の重点学域として認定され、多くの関係研究室がかかわる研究プロジェクトとなって現在に至っている。
今『HAL』は各方面から多くの注目を集めるようになったが、それは必ずしも人類の進化とテクノロジーの役割に関する私の考えに賛同してもらったためではない。最も大きな理由は、『HAL』が持つ、福祉ロボットや医療ロボットとして「人の役に立つ」という可能性のためであると、私は考えている。
私たちは、『HAL』の開発を始めるにあたり、いわゆる健常者だけでなく、たとえば、脳卒中で体に麻痺が残った方や、交通事故で脊椎を損傷した方々を含めたすべての人に適用できることを条件とした。さまざまな機能状態の人がいても、それぞれのレベルから少しずつ拡張できるシステムを目指したのである。ただし、それは万人に共通という考え方ではなく、個人個人それぞれに適応できるようにする、という意味での「ユニバーサルデザイン」という考え方に基づく。
ロボットスーツ『HAL』は、医療福祉分野、重作業支援分野、レスキュー活動支援分野など、多様な分野で活用できる。とりわけ医療福祉分野では、装着者の筋力などの身体動作情報を医師や理学療法士にも提示することができ、適切なリハビリテーションを実現するための動作をつくることも可能なため、『HAL』に対してリハビリテーション支援、自律生活支援、介護支援などへの適用に期待が寄せられている。