じつは「サイボーグ技術」も、その「サイバニクス技術」の一つにほかならない。
サイバニクスを駆使して開発してきたロボットスーツ『HAL』(Hybrid Assistive Limb)は、人間(装着者)の思い通りに動作する「随意制御機能」と、ロボット的な「自律制御機能」を有する、世界初の人間ロボット一体型システムである。脳神経—筋骨格系とロボットが一体化し、人間の体の一部のように機能する構造となっている。私たちの体は、脳から筋骨格系へ運動指示の命令が伝わることによって動いているが、その際、微弱な生体電位信号が皮膚の表面に漏れだしてくる。『HAL』はその信号を皮膚の表面で検出しながら、関節部に取り付けられたパワーユニットによって機能する。つまり人間側から言えば、立つ、座る、歩く、重い物を持つなどの動作が、『HAL』によって支援されるのである。ロボットスーツは外骨格構造となっているので、ロボットや荷物の荷重はロボットスーツ自身が支える。従って装着者はほとんど重さを感じないで、普段では持ち上げられない重さの物も持つことができる。
私は「人類とはテクノロジーを開発することによって進化する道を捨てた種ではないか」と考えているが、それが『HAL』の開発モチーフでもある。たとえば、人間は携帯電話を持つことで、遠く離れたところの情報を瞬時に聞き出す能力を身につけたと言ってよい。人類はテクノロジーとともに生きることを選択することで、種としての進化を別の形で遂げようとしているのである。
では、人はどのようにテクノロジーとともに歩んでゆくのか? 人間とテクノロジーの円滑な関係、適切な共依存の関係を現実のものにしてゆくアプローチの一つが、『HAL』の開発であったと言うことができる。
しかし、どんなに人間のことを思ってテクノロジーを活用しようとしても、両者に良い関係をつくり上げないと、テクノロジーの多くは心理的にも生理的にも人間に拒否されてしまう。人とロボットを「密着させる」というアプローチは、SFの「サイボーグ」と言うこともできようが、その意味で『HAL』は、テクノロジーを一体化・共依存させることで、人間の身体機能を拡張していく「サイボーグ技術」への挑戦でもあった。