産業用ロボットの開発では、ビジネスとして成功するシナリオが明確だった。そのため、大学での基礎研究が、工場で活躍する実用ロボット技術へと直結していた。ロボット王国「ニッポン」の誕生である。そこには、世界の生産拠点として頂点を極めようという「ビジョン」と「戦略」が存在していた。ドイツの『Der Roboter』という本に、日本の富士山から地球上のあらゆる場所にロボットが噴き出していく皮肉っぽいイラストがあったことが思い出されるが、当時の日本はそのイラスト通り、産官学挙げての実用ロボット開発国家だったのだ。
しかし1990年代、ちょうど産業用ロボットの開発が技術面で一段落して少し時間がたった頃、単に新しさのみを追求する、いわゆる「作品としてのロボット」が現れ始めた。その時代のロボット開発では、多くの場合、そのロボットをどの分野でどのように活用するかを、言い換えれば、どのように「人の役に立つ」技術として展開するかを、開発者自身がはっきりと意識していなかった。そのため、産業用ロボットに続く新しいロボットのカテゴリーを打ち立てるには至らなかった。ここでいう新しいロボットのカテゴリーとは、人間の生活空間で人間とともにあるロボット、というものである。
従来、ロボットは工場という限定的な空間の中で働くものだったが、今後は、人間の生活空間に入り込むものになるだろう。人間と直接かかわっていくロボットは、当然、これまでの「ロボット」の概念とは大きく異なるものとなる。単なる自動機械としての「ロボット」から、人と相互作用をしながら「人と技術の新しい関係」を大切にするロボットへと進化していく必要があるからだ。
そして、そのような新しいカテゴリーのロボットを展開していく土台となるのが、「サイバニクス(Cyber-nics)」である。「サイバニクス」とは、身体機能を拡張、増幅、補助することを主な目的として、サイバネティクス、メカトロニクス、情報学を中心に、脳神経学、行動科学、ロボット工学、心理学、生理学、IT技術など、多くの科学が一緒になった新しい学術領域である。その確立こそが、従来の単なるロボット技術の枠を超えた「人」「生活空間」「人間社会」と「ロボット・情報系」の新しい技術領域を築き上げることにつながっていく。以上が、このところ、ロボット開発者としての私が拠って立っている考え方なのである。