1970年代以降の産業用ロボットの時代から世界をリードしてきた日本のロボット開発技術は、現在も世界の最高水準にある。近年では、1996年に発表されたヒューマノイド(二足歩行人型)ロボット『P2』(本田技研工業)や、後継機の『ASIMO』(2000年)の登場で、ロボットに対する社会的な関心が高まった。また99年に発売されたペットロボット『AIBO』(ソニー)が、事実上ロボット市場を切り拓くことになった。2005年に開催された愛知万博では、二足歩行や楽器演奏、会場案内を行う人型ロボットや、清掃・巡回警備を行うロボットなど70種ほどが、実稼働展示された。
注目すべきは、そのロボットと開発主体の多種多様さであろう。産業用ロボットを除くと、85年のつくば科学万博以前のロボット開発は、大学や研究所での細々とした基礎研究が中心であった。しかし愛知万博では、開発主体はすでに自動車メーカーや家電の大手企業、大学発のベンチャー企業にまで広がっていたのである。産学協同の試みも盛んであり、近年の技術蓄積や経験とともにそうした裾野の拡がりが、日本の次世代ロボット開発をさらに加速していくことは間違いない。
とはいえ、一見盛んに見える日本のロボット開発にも、いくつかの課題が残されている。たとえば、諸外国で活発化しようとしているロボット技術の軍事転用。21世紀のロボット開発では、研究者の未来ビジョンが問われることになるだろう。私は、ロボットを軍事に使用せず、平和利用を前提とした「未来ビジョン」と「哲学」を持つことが、ロボット開発において極めて重要であると、あえて最初に強調しておきたい。
ここでは、私たちが開発してきたロボットスーツ『HAL』の紹介を通して、未来社会を支える次世代ロボット開発の新たな方向性について述べていこう。