日本の最北部にある北海道は、本州の次に大きな島だ。知床は、その東からオホーツク海に突き出した小さな半島である。その名は、北海道の先住民族アイヌの言葉で「大地の行きづまり」を意味する「シリエトク」が語源といわれている。半島の中央に1500m級の山が連なり、ほとんど平地がない険しい地形で、冬には遠くシベリアから南下してくる流氷が取り囲む。
 知床は2005年7月、ユネスコの世界自然遺産に登録された。知床の自然を支えているのは、手つかずの原生林と流氷の豊かな海。森にはヒグマやエゾシカなどの大型哺乳類が生息し、秋にはサケ・マス類が産卵のために海から川をさかのぼる。野鳥も多く、シベリアから渡ってくるオオワシ、オジロワシや、世界最大のフクロウ、シマフクロウなど、希少な猛禽類や、多くの海鳥が観察される。海ではアザラシやトドなどの海獣の群れを見ることができる。
 知床を訪れるには、北側のウトロ(斜里町)が起点となる。周辺に、知床五湖やカムイワッカ湯の滝、フレペの滝などの見所が多く、街には温泉付きのホテルが立ち並んでいる。
 最初に知床自然センターを訪ねてみた。知床の自然に関する情報提供のほか、各種の自然体験プログラムを実施していると聞いたからだ。
 「知床が世界遺産に登録されたのは、生物の多様性と生態系が評価されたからです。ガイド付きツアーに参加して、知床の自然が持つ価値を詳しく知ってもらいたいですね」と知床自然センターの松田光輝さんは言う。
 遊歩道を行けば、20分ほどでフレペの滝だとセンターで聞いたので、早速、自然散策に出かけてみる。センター裏の森を抜けると、広々とした草原が海まで広がる。エゾシカの親子がのんびりと草を食んでいる。7月でも海からの風が涼しく心地よい。草原の先の断崖近くに展望台があり、ここからは間近にフレペの滝が見える。知床連山の眺めも素晴らしい。
 展望台からの帰り、後ろから「熊がいる!」という声がする。振り返ると50〜60m先の森からゆっくりと親子のヒグマが現れた。子熊は愛らしいが、親熊は迫力満点。熊の様子に見入りながらも、思わず後ずさりしてしまう。   
 センターにもどり、カムイワッカ湯の滝行きのバスに乗る。バスに揺られること約50分。バス停から目指す滝つぼまでは約1q、約30分のちょっとした沢登りだ。いくつもの大岩を乗り越え、水しぶきを浴びながら急な渓流を、足を滑らさないように登っていく。滝つぼに高温の温泉が流れ込み、そこは、いい湯加減の温泉になっていた。
 知床のもうひとつの町、羅臼へ向かう。ウトロから知床横断道路(冬期閉鎖)で知床峠を越えて東へ約30q。羅臼は漁業中心の町で、大型のホテルもなく、北の漁港の情緒が漂っている。
 朝早くの浜、強い風の中、数人の漁師たちが朝一番で採ってきた昆布を船から降ろし、洗浄などの作業をしている。昆布は沿岸で採れる海藻で、羅臼の代表的な海産物。何枚もの昆布を抱えた漁師が、「この時期は毎日戦争だね」と笑顔で話す。漁も重労働だが、羅臼昆布はその後も大変。浜で太陽にあてる天日干しや、熟成作業など、加工の手間は40を超えるという。
 羅臼の夏の浜は、昆布のいい香りと漁の活気に満ちていた。

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