薄切りにした牛肉を、煮立てたスープの中でさっと泳がせ、タレで食べる「しゃぶしゃぶ」は、すき焼きと並んで海外でもよく知られた日本料理だ。
 日本で好まれる「霜降り肉」、つまり網の目状に細かく脂肪が入った牛肉の、最も優れた食べ方がこのしゃぶしゃぶである。半分ほど火が入った肉は極めてやわらかく、口の中に入れると、とろけるようにおいしい。
 この料理が生み出されたのは第2次世界大戦後のこと。もとになったのは中国・北京料理にある羊の鍋料理、「羊肉」といわれている。これは薄切りにした羊の肉を、火鍋子という炭を熱源とした鍋で煮立てたスープにくぐらせ、タレをつけて食べるもの。これにヒントを得た大阪の料理店『スエヒロ』が、1952年、羊を日本人に馴染みのある牛肉に替えたしゃぶしゃぶを考案したという。3年後、東京で初めて紹介したのは『ざくろ』。以来、牛肉の定番料理として全国的に広まっていった。
 「しゃぶしゃぶ」の名は、熱湯の中で肉を泳がせる様子に由来すると思われるが、定かではない。『ざくろ』の泉昭義さんも、
 「店の創業時のメニューには“牛肉の水炊き”とあったと聞いています。しゃぶしゃぶの語源はわかりませんが、うまいネーミングと思います」
 と話す。
 火鍋子を用いるのが本格だが、家庭では卓上コンロと土鍋で手軽に楽しまれている。材料は薄切りの牛肉、長ネギ、豆腐、白菜、キノコなど。専門店では牛肉や野菜からとったスープを用意しているが、昆布ダシを使ってもいい。タレには、ゴマをよく擂り、醤油などで調味して作るゴマだれや、柑橘類の搾り汁と醤油を合わせたポン酢醤油が合う。
 初めに肉を食べ、スープに肉のうまみが溶け込んだところで野菜などを入れるのがおいしい食べ方。肉はなるべく薄切りにする。箸でつまんで鍋の中で泳がせるようにし、完全に火の通り切らない状態で食べる。もちろん、好みで十分に火を通してもよく、食べる人の好みで加減できるのもしゃぶしゃぶのいいところだ。
 上質の牛肉は日本では最も贅沢な食材のひとつ。寒い季節、おいしくて心も体も温まるしゃぶしゃぶは、誰にでも好まれるごちそうである。NIPONIA

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