春には桜が咲きます。千年以上の樹齢をもつ老大樹から、やっと花をつけることが出来た若木まで、いたるところに桜の木があります。桜を日本人は単に「花」と呼ぶほどに、この木を愛し、親しんできました。桜の開花が近づくほどに、日本中の人びとの心が浮き立ってきます。花を待つ日々を経て、一花がひらけば、それを初花、初桜と呼んで愛で讃えます。二分咲、三分咲、そして満開が近づけば、花の下で家族、友人、仲間がごちそうを持ち寄って過ごす花見の準備が始まります。花見弁当、花見酒という言葉は昔からあるのです。
また、とりわけ女性たちは、花に逢いにゆくためのおしゃれに心を砕きます。和服に凝った時代は遠ざかりましたが、着るものに気を配る伝統は消えておらず、その衣服を花衣と呼んでいます。また居住地から離れた場所の桜を訪ねてゆくことを桜狩と言います。花狩とも言いますが、うきうきと心の弾む時間です。
桜をたのしむ方法はいろいろあります。桜の花を一日の縦の時間の中で観賞する日本語も美しいのです。朝桜は昇ってきた朝日に映える花の美しさ。夕桜は夕暮の光の中の桜花のたたずまい。そして夜桜の幽玄。闇に沈む花をより美しく引きたたせるために、花のほとりに火を焚いて、その優雅な空間を堪能する花篝という言葉もあります。