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本州島の東北部、岩手県の太平洋沿岸には、約180qにわたって続く陸中海岸国立公園がある。国内有数の景勝地として知られるこの海岸線は、宮古湾を境に、北と南で異なる様相を見せる。北部は大地の隆起と波の浸食によってつくりだされた隆起海岸で、断崖や岩礁が連続する。一方、南部は約1万年前に始まった世界的な海面上昇によって谷が沈降し、形成されたリアス海岸。湾と岬が交互に連なり、複雑に入り組んだ海岸線である。
つねに自然の大きな力を受けつづけてきた陸中海岸は、度重なる大津波にも悩まされてきた。美しい自然景観からは、とても想像しがたいが、1896年と1933年の三陸沖地震では、住民の半数以上が亡くなった町もある。
この海岸線を縫うように1本の鉄道が走っている。1両か2両編成が基本の小ぶりなローカル線「三陸鉄道」は、海辺の景色を楽しむのにうってつけだ。この列車に乗ろうと、北リアス線の起点となる宮古市へ向かった。
宮古は陸中海岸の拠点となる町。三陸沖のサンマ、タラ、サケなどが水揚げされる、魚介類に恵まれた地域だ。宮古駅を出発した列車は、かわいい1両編成。地元のお年寄りや学生を乗せ、ガタゴトと車体を揺らしながら、トンネルを抜けては、集落の側を走っていく。さらにひとつ、またひとつ。いくつものトンネルをくぐり抜け、列車はひたすら走り続ける。
田野畑駅で途中下車し、陸中海岸を代表する名所「北山崎」へ。展望台から望む眼下のはるか先、大断崖が激しく波に打たれるのが見え、思わず足がすくむ。その高さ約200m。鋭い崖は8qも続き、波打ち際には海食作用でえぐられた穴がいくつも見える。長い時をかけて、自然が生み出した景色は実に壮大だ。
再び、三陸鉄道に乗り込むと、今度は1日1往復だけ走行するレトロ列車だった。この列車は、古きよき時代の豪華列車を思わせる造り。通路に絨毯が敷かれ、シャンデリアが灯り、古風な4人掛けの座席が備わって、なかなか快適な乗り心地だ。
安家川の鉄橋に差しかかる頃、列車は今にも止まりそうなぐらいに、徐行運転を始めた。車窓に映るのは、気持ちが晴れ晴れするくらいに広い太平洋。穏やかな海は深い紺碧に染まり、神秘的でさえある。
「ここでは景色を楽しんでもらうため、スピードを落とします。真下を流れる安家川では、秋になるとサケが遡上しますよ。豊かな自然を多くの人に知ってもらえると嬉しいですね」と車掌の林郷哲巳さんは笑顔で話す。
ここから20分ほどで、終着地の久慈駅に到着する。久慈に着いたら名物の「ウニ弁当」を食べてみたい。ウニを炊き込んだご飯の上に蒸しウニを載せたもので、三陸の海の幸を手軽に味わうことができる。
三陸鉄道の沿線には、「北山崎」の他にも優れた景勝地がまだまだたくさんある。澄んだ海に白い岩が林立する「浄土ヶ浜」、さまざまな海の色と大岩壁が見事な「鵜の巣断崖」、海面から三つの奇岩が突き上がる「三王岩」など、それぞれに異なる景観と出会えるのが素晴らしい。
海の恩恵によってつくり出された、陸中海岸の雄大な景色。変化に富む自然の造形美は、訪れた者の心にしっかりと刻まれることだろう。
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