「防災用品をちゃんと用意していますか? 地震大国の日本に住んでいるんですから、非常用食糧や水は必ず3日分常備していてくださいね」
微笑みながら、アドイバイスするのは海洋研究開発機構、地球内部変動研究センター技術研究員のアレックス・スミスさん(32歳)だ。同センターに赴任して3年目。日夜コンピュータに向かいながら、地震の研究を続けている。巨大地震に備え、その発生メカニズムや地震波のシミュレーションモデルをつくっているのだ。
「日本は地震計が全国に張りめぐらされています。それらのデータは常に集計、分析されているので、地震を研究するには、まさに世界一の環境といえるんです」
アレックスさんはカナダ、コモックス市生まれ。海に面した小さな町で、地震が多い土地に育ったこともあり、幼い頃から地球の構造に興味があった。ビクトリア大学でも物理学を専攻、研究者になるべく大学院に進学した。日本に来るきっかけは、大学院在籍中のことだったという。
「私の弟がカナダで大工をしていたんです。阪神・淡路大震災の時、倒壊した家屋の建て直しのために、弟は救援活動で日本を訪れたんです」
「日本は面白い」という弟の言葉に誘われ、アレックスさんも来日。当初は観光のつもりが、日本に魅了された。
「日本の家が、地震や台風などの天災に強い構造であることに、まず驚きました。それと日本人の、人をもてなすサービス精神にも感銘を受けました」
居酒屋などに入ると、日本では出来立ての料理を運んでくる。カナダでは、調理済みのものが機械的に出されていたが、日本ではウエイトレスやウエイターが、笑顔とともに温かい料理を給仕してくれ、それがアレックスさんには新鮮だった。日本で暮らしてみたいと思ったその矢先、横須賀市にある海洋研究開発機構の存在を知った。早速、研究員として応募。同機構では国籍を問わず、広く海外からも研究者を募集しており、アレックスさんの所属するグループにはアメリカ、韓国、ミャンマーから研究者が参加している。
「ここには、地球深部探査船“ちきゅう”や、世界で3番目に速いとされる“地球シミュレータ”というコンピュータまであったんです」
アレックスさんは地震研究のかたわら、日本語の勉強も兼ねて、柔術の道場にも通った。そして、そこで出会った日本女性と2004年に結婚した。
「妻もそうですが、日本のみなさんは、私に英語で話しかけてくれるんです。大変ありがたいんですが、私はさっぱり日本語が覚えられません(笑)」
現在、横浜市のマンションで二人暮らし。休日には二人で、テニスやジョッギングをして過ごす。
「将来の夢? わかりませんね。今、日本でこうしていることも、5年前にはまったく予想できなかったことですからね。計画を立てても、その通りにいくとは限りません。どうなるかわからないから、新たな発見も生まれるんです」
人生は予測不可能。地震と同じで予測することより、起きたことに対して正しく対処することのほうが、大事なのだそうだ。

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