|
いまどき日本列島
クマが里に降りてきた!
文●坂上恭子 写真提供●毎日新聞社
2004年は例年になくクマの出没が多かった。目撃情報はもちろん、クマが民家や学校に出没し、人が襲われる事故も相次いだ。10月末までに人身事故は88件103人。最も深刻なのは日本海側の北陸地方で、人身事故が31件も発生。射殺されたり、捕獲されて山奥に返されたりしたクマは全国で1600頭を超え、連日のようにニュース報道された。
日本に生息するクマは、ヒグマとツキノワグマの2種類。このうち各地で被害をもたらしているのは、本州、四国、九州に生息するツキノワグマだ。環境省の「日本の絶滅のおそれのある野生生物」(レッドデータブック)にも記載され、その生息数は全国で約1万〜1万2000頭前後と見られる。
そもそも臆病で警戒心の強いクマは、ブナやナラなどの木が生い茂る奥山にのみ生息し、ドングリなどをエサにしていた。人里と奥山の間には里山と呼ばれる林があり、ここにクマのエサがないため、クマが奥山から降りて来ることはなかった。しかし1970年代以降、日本の森林はブナやナラなどの広葉樹からスギやヒノキなどの針葉樹の人工林に転換され、クマのエサとなるドングリも減少した。これについて日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦さんは言う。「里山の荒廃は、20年も前から言われていること。確かに長期的な影響もあるでしょうが、今回の騒動は、むしろ台風※によるものが大きいと思います」
2004年、日本に上陸した台風の数は11月24日の時点で計10個。最多記録であった1990年と93年の6個を大きく更新した。クマが多く出没した北陸地方では、梅雨前線の影響による集中豪雨にも二度見舞われた。「クマは木に登ってドングリを採ることができる。しかし、台風や集中豪雨でドングリが木から落ち、それをほかの野生動物に奪われ極端にエサが不足した。さらに、物音に敏感なクマは、強い雨や風によってストレスを受け、凶暴化したとも考えられます」(米田さん)
冬眠の時期に入ると、2004年のクマ騒動はひとまず収束した。だが、絶滅の危機がある動物なだけに慎重な対策が必要であり、自治体などの関係者は、自然保護と人命尊重のジレンマに頭を痛めている。人間と野生動物が共存できる自然環境を作るため、今後も模索は続く。
※中心での最大風速が17.2m/sec以上となる熱帯低気圧
|
| close |