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野菜や豆腐などの行商人の売り声がよく似合う京都の路地。車一台入るのがやっとという細長い路地には、2階建ての長屋が蜒々と続く。そんな路地の一角に、清水焼絵付け職人・石川美代子さんの住居と工房はある。
家を空けるときもカギをかける心配がない。出掛けには「どこ行くのン」、帰りには「お帰り」と必ず何人もの声がかかる。
「若いころはこんなつきあいを煩わしいと思ってたんやけど、いまは逆にええなと思うようになりました。つかず離れずの関係というのか。互いに気をつけながらも入りこまず、でも何かあったときは力になってくれる。京都には、そういう都会のルールが根づいていると思います。だから、すごく暮らしやすい」
そう話しながらも、石川さんの手は休まず動いている。毛先の細い筆で、素焼きの湯のみに小さな幾何学模様を描いていく。
「私は小紋しか描きません。昔から骨董が好きで、それも磁器の小紋柄ばかり集めていて、それが嵩じてこの世界に飛び込んだんです」
ある窯元で絵付け職人を探していると聞いて、居ても立ってもいられず、「1年間、給料なしで頑張りますから、やらせてください」と訪ねていった。まったくの素人だった。
清水焼は、「土もの」と呼ばれる陶器にしても、「石もの」と呼ばれる磁器にしても、すべて手作り。“手ろくろの手描き”が特徴で、分業体制も確立している。石川さんは絵付けの修業を積んだ。それから30年。いまでは、名指しの依頼だけ受けるようになった。
それにしても細かい仕事である。
「私は山登りが趣味なんですけど、小紋の柄を描くのは山登りと似てるんです。一歩一歩足を運べば頂上に着くように、小紋も一筆一筆手を動かしていればやがて模様で埋まる。そんなんが好きなんかもしれませんね」
清水焼の魅力を聞いた。
「それは一つとして同じものがないということと、職人が本音で生きられることかな」
そう言って、石川さんは微笑んだ。
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