田鶴均さんは、上賀茂で京野菜を生産する農家だ。いま京都で最も人気のある京料理店に野菜を納めており、客からの信頼も厚い野菜の生産者である。
 京野菜とは、京都で穫れる伝統野菜で、地元の料理には欠かせない素材。味だけでなく姿、形にも特徴があり、まん丸のナスや、ひょうたん形のカボチャなど見た目にも楽しい。また、一般の野菜に比べ大ぶりなのも特徴的だ。
 京野菜は1200年かけて作り上げられてきたもの。1200年前の遷都以来、京に届けられる各地からの献上品の野菜の種をとり、農家の人たちが土地の風土に順応させて作ってきたものだ。そこから京都の人の味覚に合うように改良が重ねられ、選び抜かれた野菜の種や栽培法が、京都の農家に代々伝わっていったのだ。
 田鶴さんの家にも、いくつかの京野菜の種が代々伝えられてきた。「だから自分もそれを守っていかなあかんなと、小さいころから自然に思っていたんです」
 ところが、農業高校を卒業して、家の仕事を手伝いはじめた頃には、伝統的な京野菜ではなく、キャベツやトマトなど一般的な野菜を栽培する農家が増えていた。
「確かに当時は、賀茂ナスを作るより、普通のナスを作ったほうがよく売れたんです」
 このままでは、京野菜は絶滅してしまう。そんな思いから、若手の仲間6人と「京都伝統野菜研究会」を設立した。今年でもう20年になる。自分たちの家に伝わる種はもちろんのこと、人づてに古い農家を訪ね、京野菜の種を集めては育ててきたのだ。
「僕のところで、20種類くらいの京野菜を作ってます。中には“田中唐辛子”といって、ししとうの原種ですが、辛くない唐辛子もあるんです」
 田鶴さんの畑は1ha。毎日、朝5時から暗くなるまで、畑で過ごすという。
「京野菜は高級品というイメージがあります。でも僕は、もっと日常の惣菜に使ってほしいんです。だから、一番美味しい時期に、できるだけ安く提供できるよう頑張っているんです」
 数年前から、スーパーの生ゴミを堆肥化して土に入れている。また京野菜の新しい食べ方の研究もしている。すべては、京野菜普及のための努力の表れである。

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