炉にかけられた釜から、湯の煮える音が響いている。柄杓に女性が手を伸ばす。
「自然に柔らかく。リラックスが大切」
 先生が声をかけた。ここは茶道教室。声の主は、ランディ・チャネルさん。茶道裏千家の準教授で「宗榮」という茶名をもつ。週4回、上京区の自宅や梨木神社などで茶道を教えている。
「茶道は京文化の集大成だと思うんです。一服のお茶をお客さまに出すために、庭や掛け軸、やきもの、生け花などで空間を演出する。そこに人をもてなす気持ちの深さを感じます」
 ランディさんは、カナダ生まれ。映画スターのブルース・リーに憧れて香港でカンフーを学び、さらに武道を極めようと20年前に日本に来た。
「私は“道”を探したかったんです。精神的なものですね。香港では、自分が若かったこともあって、それがわからなかった」
 長野県松本市に住み、剣道、居合道、弓道、薙刀、二刀流などを学んだ。同時に茶道も始めた。
「でも、まだお茶は趣味程度でした。武道ばかり一生懸命やっていました。ところが10年くらい前、“道”に迷ってしまったんです。また“道”がわからなくなりました」
 ランディさんは、一から“道”を探り直すために、武道はしばらくおき、茶道に専念してみようと思った。そして1993年、京都に移り、裏千家の専門学校の門を叩いたのだった。
「武道を10年、そのあと茶道を10年やってきて、素直な心の大切さがわかってきました。それがあれば、生徒さんからも学べるし、失敗からも学べます。それと“道”を探るのは一生かかるということもわかりました」
 ランディさんの愛車は、100tのバイク。それで京の町を隅々まで動きまわる。
「京都は日本的なものもいっぱいある半面、すごく国際的な町です。だから楽しい」
 彼はブルース・ハープを吹く。週末になるとライブに飛び入りで参加したりもする。将来は、京都の郊外に、文武両道を教えられる道場をつくるのが夢だという。

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