ガスと水の混合物を流す天然ガスのパイプラインでは、困った現象の起きることが知られていた。天然ガス中のメタン分子が水分子に取り込まれた結果、白い氷のような物質ができてパイプを詰まらせてしまうのだ。その物質こそ“燃える氷”、すなわちメタンハイドレートである。
 メタンハイドレートとは、水分子とメタン分子から成る氷状の固体物質。低温・高圧下で安定状態を保ち、おもに永久凍土層下や深海底の地層中に存在する。この中のメタンを取り出すことができれば、石油や石炭に代わる代替エネルギーとして利用できることから、1970年代以降、新しいエネルギー資源として世界で脚光を浴び始めた。自給率20%というエネルギー資源の不足に悩む日本も、 当然ながら注目。音波探査の結果、日本周辺の海底には、約7兆、日本の天然ガス使用量の100年分に匹敵する量の存在が推定されたためだ。
 1995年から2000年までに行われたメタンハイドレート資源の基礎研究では、紀伊半島から四国にかけての太平洋沖合に、日本列島とほぼ平行して走る南海トラフ(舟状海盆)で発見・採取するなど、期待を裏付ける結果を得た。そこで経済産業省は、2001年から2016年まで16年間に及ぶ「メタンハイドレート開発計画」を策定。深度800~3000m間の海底下に眠っていると推測されるメタンハイドレートを効率的に探査する方法はないか、どの場所でどうやって掘り出すか、環境に悪影響はないかなどを研究し、実際に探査と試掘、生産実験を行いながら実証していくことにした。2004年からは、いよいよ日本近海十数カ所での試掘に入る。
 推定埋蔵量については、将来的に大きな期待がもたれるが、課題は7兆m³のうち何%を掘り出すことが可能なのか、経済的に掘り出すことができるかどうか、である。技術的に数%しか掘り出せなかったり、掘り出せても採掘コストや運送コストが石油や天然ガスに比べて割高になったりしては意味がない。また、燃焼しても硫黄酸化物が発生しない比較的クリーンなエネルギー源だが、メタンは地球温暖化物質でもあるから、大気中に拡散させることはできない。
 深海底に眠る“燃える氷”をエネルギー資源とするために、開発者たちの努力がいまも続けられている。

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