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燃料電池とは、図のように水素と酸素を電気化学的に反応させて、直接、電気を取り出す発電装置のことである。天然ガスからバイオガスにいたるまで、水素を取り出せるものなら何でも利用できる上、燃料を燃やさないので有害な排気ガスがほとんどない。しかも、エネルギー効率が、理論的には60%、化学反応の結果として発生する熱まで利用すると80%以上と、他の発電システムに比べて高いことが大きな特長だ。1960年代に宇宙船の電力源としてまず実用化されたが、その後、石油危機を契機に、火力発電に代わる発電システムとして、世界各国で開発が進められてきた。
日本でも1981年から国家プロジェクトが始まり、2度の10年計画の中で、燃料電池の開発は進められた。その成果が、「リン酸形(PAFC=Phosphoric Acid Fuel Cell)」の実用化である。数年前の最盛期には50〜200kW級のPAFCが全国で200基程度、今でも数十基が工場や公共施設などで稼働し、合計すると1万kWほどの電力を生み出している。ただし、発電コストは1kWあたり40万円から50万円と、まだガスタービン発電の倍もかかり、決して広く普及しているというわけではない。
プロジェクトで開発対象とした各種の燃料電池のうち、この10年で最も急速に開発が進んだのは、「固体高分子形(PEMFC=Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)」と呼ばれるタイプである。室温で稼働し、出力も大きいので、家庭用電力源や自動車用動力としての期待が高まったためだ。2002年末には、トヨタとホンダが、PEMFCで発電した電気により駆動する電気自動車、すなわち「燃料電池車」を完成。内閣府、経済産業省などに計7台を納品した。ホンダは他にアメリカのロサンゼルス市にも3台納品している。
ホンダの燃料電池車FCXの場合、PEMFCの出力は78kW。350気圧の高圧タンクに純水素を156リットル搭載し、355qの航続距離と時速150qの最高速度を実現した。発進や加速時には、バッテリーに代えて搭載した高効率・高出力のキャパシタから電力を補うため、テストドライバーも驚いたほどの加速性能を持つ。まだ1台1億円を超す価格や、水素ステーションなどの設備をどう整えるかという課題はあるが、燃料電池車が、航続距離と加速性能に難がある電気自動車に代わり、次世代自動車の筆頭に躍り出た感が強い。
PEMFCからは、純水素の代わりにメタノールを燃料にし、装置内で水素を取り出して使う「直接メタノール形(DMFC=Direct Methanol Fuel Cell)」という方式も派生している。DMFCは水素燃料のPEMFCより危険が少なく、装置も小型化できるため、現在は大手家電メーカーが、主にノート型パソコンや携帯電話の電源として開発を進めている。
2003年、東芝が発表した手のひら大・外付けタイプの携帯電話用DMFCは、カートリッジ内の25tのメタノールで、通常の携帯用内蔵リチウム電池6個分の電力を供給することができる。ノート型パソコン用は2004年、携帯電話用も遅くとも2005年には市販されそうだ。
発電しても水だけ、あるいは水とわずかな二酸化炭素しか排出されないクリーンな電力源、燃料電池。かつて夢想されたように、家全体の電力源として普及するのはまだまだ先の話になるが、まずは携帯機器電源や自動車用という形で暮らしの中に入ってくることになる。
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