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排気ガスゼロの電気自動車。自然のエネルギーを直接、電気に変える太陽光発電や風力発電。そんな“地球に優しい”システムがなかなか普及しない理由の一つに、「電池」の問題がある。例えば、電気自動車は総重量400kgものバッテリー(鉛蓄電池)を積まなければならず、しかも、そのバッテリーは頻繁に充電し、交換する必要がある。一方、太陽光発電や風力発電は、夜や無風といった「発電できない時間」のために、代わりの電力源を用意しなければならない。電気を貯めておく効率的で経済的な技術がなかったのだ。
その電池の世界で、ようやく技術革命が起こった。「電気二重層キャパシタによる蓄電システム(ECaSS=Energy Capacitor Systems)」の誕生である。
電気を電気のままで蓄える「キャパシタ」は、電気を化学エネルギーに変換して蓄える鉛蓄電池や、水の位置エネルギーに変換して蓄える揚水発電より、原理的に効率のよい蓄電装置。その歴史は250年以上前のライデン瓶の発明にまで遡るが、現代では「コンデンサ」という重要な電子部品のひとつになってもいる。ただし欠点があった。単位重量や単位体積あたりで蓄えられる電気エネルギーの量(エネルギー密度)が小さく、大きな電力を貯めようとすると、装置全体が重く巨大なものになってしまう。電気自動車で鉛蓄電池400kgの代わりをさせるには、理論上、なんとその約20倍、8tもの重さのキャパシタが必要なのだ。
この問題を解決したのが、研究者の岡村廸夫さんだ。
1992年、正月元旦。岡村さんは自宅の庭で、隣家から来た猫と遊んでいた。ふわふわと暖かそうな毛の猫だった。岡村さんはたまたま手近にあったプラスチックの下敷きで猫の毛をこすると、静電気が起きて毛が逆立ち、パチパチと音がした。
「その瞬間、電気はやはり電気のままで蓄えるのがいいし、『電気二重層』が使えそうだということなど、ECaSSに関するすべてのアイデアが一気に浮かんできたんです」(岡村さん)
電気二重層とは、電極と電解液の境界面にプラスの電極の層とマイナスの電極の層が対で形成されるという、120年前にドイツの物理学者ヘルムホルツが発見した現象のこと。その二重層は、電圧が限界を超え、電気分解を始めるまで絶縁膜として働くが、厚さはわずか1分子ほどしかなく、フィルムなど従来の絶縁膜とは比較にならないほど薄い。これは結果的に、今までのキャパシタと比べて、エネルギー密度をはるかに大きくでき、同時に小型化への道が開けるという意味を持つ。ただ、それでも鉛蓄電池に比べ、20分の1のエネルギー密度でしかなかったのである。
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