![]() |
![]() |
タヌキは古くから、おそらく数十万年前から、日本列島に棲み着いていた原始的なイヌ科動物である。タヌキはれっきとした野生動物だが、最近では郊外の住宅地などに現れ、人間と交流する姿がニュースになることも。日本人にとって、タヌキは身近な野生動物の一つなのだ。
だがタヌキが身近なのは、今に始まったことではない。大昔からずっと、なのである。それは、タヌキの好みの生活場所が、海岸べりから丘陵地帯、低山帯までの森だったからだ。彼らはそこでミミズなどの小動物を食べていた。そして、何万年も前のことであろうが、同じような環境を好む人間が移住してきて、両者は出会ったのだ。以来、タヌキと人間は深く関わり合い、その中からタヌキが登場する民話なども生まれたのである。
日本の民話や伝説に出てくるタヌキは、よく化けて人をだます。これは古代に中国から伝わった伝説の影響を受けているといわれる。中国の伝説では、さまざまな動物が妖怪となり、数々の怪異現象を引き起こす。中世になると、このような妖怪の話が変化して、タヌキは動物の妖怪を代表するものとなり、老婆を喰い殺してその姿に化け、数知れぬほどの人びとを食べた、などという残酷な話もできた。「老婆」の話は、雑食性のタヌキが、動物の死骸などを掘り起こして食べるところから発展したのだろう。こうした民話や妖怪談の背景には、いずれも動物の習性があったことはいうまでもない。
民話などで、タヌキがよく姿を変えることで知られているものに大入道(坊主頭の大男)がある。古寺などで髭もじゃの大入道に化けて人をおどかす、というものだ。古い寺や荒れ果てたお堂の床下に棲みついたタヌキは、夜にネズミなどの獲物を求めて活動し、時には建物の中を走り回ったりしたのであろう。大きな建物にただ一人、留守番を言いつかった小僧が、タヌキの物音におびえながらも見回って責任を果たそうとしたとき、暗い本堂などを覗くと、いつも見ている阿弥陀如来像や釈迦像が大入道に見えた・・・・・・、と想像できるのだ。
また、月明かりの晩に、酒徳利と通帳を携えた小僧に化けて、よく人をたぶらかしたともいわれる。尻尾だけは隠せずに見破られてしまうものが多かったとも。村の若者が飲み過ぎて遅くなり、恐る恐る寺の近くを通ると、チョコチョコと走っていく小僧のような姿を目撃する。食べ物でも漁っていたタヌキが人の足音に逃げ出したのだろう。酔っぱらった上に恐ろしさが加わり、タヌキが酒を買いに行く小僧に化けたなんて話が出来上がったに違いない。
妖怪に毛むくじゃらの手で顔を撫でられたという話もよく聞く。これなどは、酔っぱらって野原などで寝てしまったとき、タヌキに顔の辺りをいじられて目が覚め、びっくり仰天したという次第なのだろう。人慣れしたタヌキは、人間が横たわっていると食べ物でもないかと近寄って、何があるのか確かめるつもりで匂いを嗅ぎ回る。人間は、説明できない不可思議な事柄や、恥をかいた体験などの原因を動物のせいにしてきたのである。
時代によって、タヌキに対する人間の接し方は大きく変わってきた。だがタヌキの方はずっとタヌキのままである。多くの野生動物が棲息数を減らした今、タヌキは貴重な動物とされている。日本人にとって、「身近にいて当たり前」の動物、それがタヌキなのだが、これからもそうであり続けて欲しいものである。
|
close |