|
「やっぱり、カッコいいね、俺」
まわし姿で鏡を見つめ、トゥサグリア・レヴァンさん(22歳)は気さくに微笑んだ。四股名(力士としての名前)は黒海。日本の相撲界に入り、わずか2年で「十両」という階級まで昇進した、注目の力士だ。
トゥサグリアさんはグルジア共和国、スフミ市生まれ。父親が旧ソ連のレスリングチャンピオンで、生まれながら体格にも恵まれた。ところが独立間もないグルジアでは内戦が続き、戦火を逃れて12歳で故郷を脱出、首都のトビリシ市に移り住んだ。そしてグルジア・スポーツ・アカデミーに入学してレスリングを学ぶ。夢はオリンピック出場。18歳の時には、見事、ヨーロッパ大会のフリースタイル130s級(当時)で優勝に輝いたのである。しかしトゥサグリアさんの「大きすぎる体」が災いした。
「レスリングの階級制が変わってしまったんです。僕は体重が135sあったんですが、120sまで落とさないと出場できなくなったんです」
この先どうしよう、と悩んでいた時にテレビで知ったのが、日本の相撲だった。こちらは体重無制限。グルジアにはない「プロスポーツ」だということも魅力。たまたま日本から新人力士を探しに来ていた人に誘われ、トゥサグリアさんは日本行きを決意した。
日本の相撲界は、上下関係が厳しいことでよく知られている。力士たちは、師匠である親方が経営する「部屋」の所属となり、新人は食事の準備から、先輩力士の身の回りの世話までしなくてはならない。トゥサグリアさんにとって、すべてが初めての体験だった。
「最初はつらかった。日本語はわからない、食事も全然違う。でも言葉はおかみさんが親切に教えてくれたし、何より、僕は“やる”と決めて日本に来たんですからね」
レスリングと違い、相撲は一瞬の勝負。土俵に上がり、相手とぶつかりあったら、考える時間もない。相手を投げるか、土俵の外に出すか。厳しい稽古はその一瞬のための鍛練だ。
「日本は古い伝統を持つ国です。相撲もそのひとつで、そこには日本人の“ひたすら一生懸命になる”という心があると思います。僕の生まれ育ったグルジアは、まだ新しい国ですから学ぶところは大きいです」
早朝6時半、起床。午前中は稽古。そしてちゃんこ鍋と呼ばれる、肉や野菜たっぷりの昼食をとって体を大きくする。トゥサグリアさんはこの通常のトレーニングに加え、夜も近所のスポーツジムに通って筋力を鍛えている。スピード昇進はその努力の成果だ。
現在、埼玉県草加市の追手風部屋で、他の力士たちと共同生活。休みの時には、自室で日本の音楽やテレビを楽しんでいる。
「一番楽しいのは、いい稽古をして、いい汗かいて、もっと強くなることです。僕には自信があるから、頑張るだけです」
夢は横綱。そうなれば故郷で応援する両親にも、その姿をテレビで観てもらえる。彼のもうひとつの夢は、苦労を重ねた両親への「恩返し」である。
|
| close |