周囲を海に囲まれている日本では、古来、魚介類は、さまざまな料理法でよく食べられてきた。内臓を出してから塩をして天日に干し、食べる前に直火で焼いていただく「干物」も、そんな数ある料理法のひとつである。干物は、今では日本中、どこでも手頃な価格で入手できる、人気の食べ物である。日本の伝統的な朝食には、蒸した大豆を発酵させた納豆などと並んで、欠かせない一品でもある。
 干物の歴史は古く、魚を干し上げる習慣があったことは古代にまで遡ることができる。奈良時代(710〜784年)の正倉院文書にも、神に捧げる貢物「神饌」として、(干物の原型である)小魚を丸ごと干した「 」などがあったことが記されている。江戸時代、1697年刊の図鑑『本朝食鑑』には、アジについて、「魚浦では常にとって干魚にする」とある。初めは、保存食として魚を丸のままカチカチに干し、そのまま食べていたが、時代が下るにつれ、現在のような半生状態のものが作られるようになった。
 干物は、その形状によって、丸のまま干したものを“丸干し”、開いて干したものを“開き”とも呼んでいる。魚に塩をして天日に干すと、たんぱく質の分解酵素がほどよく抑制され、その働きによってアミノ酸やイノシン酸といった旨み成分が生魚よりも増し、さらに日持ちが良くなるのも特徴だ。
 干物は、特別な道具もいらないので、家庭でも簡単に手作りができる。作りたての干物は市販のものよりもみずみずしく、ひときわ美味しく感じる。
 作り方は、まず魚の内臓を取り、開いて魚体をよく洗う。頭をつけておいた方が見栄えがするのだが、簡単に作るなら、通常食べない頭を落としても構わない。次に魚に塩をする。塩をそのまま全体に振ってもいいが、ムラになりやすいので、通常は「立て塩」というやり方をとる。これは開いた魚を塩分10〜20%の塩水に漬け込み、塩を満遍なく全体にしみ渡らせる方法だ。塩分濃度や漬け込む時間は、魚の種類、大きさなどによって異なる。これを網やザルなど水気が切れるものの上に載せ、太陽光で干し、表面が乾いたら出来上がりだ。
 食べる時は、焼き網の上に載せ、直火で皮の方から焼く。皮に焼き目がついて、身の表面の色が少し変わり始めたら、返してさらに火を通す。
 干物にする魚は種類を選ばないが、現在では比較的漁獲高が多いイワシ、アジ、サンマなどの、いわゆる青魚といわれているものでよく作られている。これらの魚で作った干物は値段も安く、庶民のご飯のお供として広く親しまれている。

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