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日本は温泉の国である。全国各地に湧く温泉は26000を超えるほどだ。その上、最近の温泉源探査や掘削技術をもってすれば、たいていの場所から温泉が噴出すると言われている。日本人にとって温泉はとても身近なものなのだ。そして太古の昔から、温泉が大好きだったからこそ、日本人は温泉の楽しみ方に長けているのかもしれない。
日本の本州のほぼ中心に位置する群馬県。その北西部にある草津は、そうした日本を代表する温泉地のひとつである。伝承によれば、草津の温泉を発見したのは、古代の伝説的な英雄・ヤマトタケルとも、8世紀頃の僧侶・行基とも言われている。日本の古い温泉の歴史には、なぜか仏教の僧侶がよく登場する。医学の発達していなかった時代、傷や病を癒した温泉は、不思議な力をもつありがたいものだった。それで、尊く高名な僧侶と温泉をつなげた伝承が生まれたのだろう。
バスターミナルから旅館を目指して歩くと、まず視界に飛び込んできたのが「湯畑」と呼ばれる大きな源泉だった。草津の湯は、自噴泉といって地面から直接湧き出ている。温度は56℃。そのままつかるには熱すぎるので、その名のとおり「畑」のように仕切られた木枠の中を流して冷ますのだ。湯畑の周辺は、広場のように人々が集い憩う場所になっている。
歴史ある老舗旅館は湯畑の近くに多いが、今夜の宿である奈良屋も130年近い歴史がある。のれんをくぐって玄関に入ると、番頭さんの元気な声が迎えてくれる。
帳場で宿泊の手続きを済ませて、宿泊客の世話係「仲居さん」の案内で部屋に向かう。温泉に関すること、例えば浴場の場所や入り方などは、ここで案内されるので聞き逃さないよう注意したい。
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