1997年、アメリカの火星探査機「マーズ パスファインダー」は、火星に到達、21年ぶりに火星の地形の撮影や大気の分析を行い、地球に送信した。
 この時、着陸機は少し変わった方法で火星に降り立った。高度を下げた母船から、エアバッグに包まれて落とされたのだ。落下の衝撃を和らげるエアバッグの素材に使われたのが、繊維メーカー・クラレの「ベクトラン」という繊維だった。
 ベクトランは、アメリカの企業が開発したベクトラ樹脂を、1990年にクラレが世界で初めて繊維化し、市場に発表した製品。わずか直径1mmで約150kgを吊り上げる、高い強度が特徴だ。また耐熱性に優れ、寸法が安定している、劣化しにくいといった性質も併せ持つ。
 過酷な環境下で、特性をいかんなく発揮したベクトランは、その後、実力が世界に認められ、今では、定地網や各種ロープ、光ファイバーの補強材などの産業用品、ラケットやネットなどスポーツ用品の素材として、広い分野で活用されている。
 「産業資材に最も多く用いられる、鉄を超える素材を作りたい、そういう願いをこめて開発しました。鉄よりもはるかに軽く、運搬しやすいことも大きな利点です。陸海空のどんな環境下でも対応できます」(クラレ・中矢隆雄部長)。
 火星を旅したベクトラン。今後は、地球上で私たちの暮らしをより豊かにしてくれることだろう。

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