現在、日本で最も多くの人が楽しんでいるスポーツといえば、ウォーキングである。日本各地で毎日、いくつものウォーキング大会が開催されている。なにしろ、最も大きな大会になると、3万人もの参加者が集まるほどなのだ。
2000年の内閣府(旧総理府)の世論調査に基づく推計値では、20歳以上のウォーキング人口は約3300万人。実に国民の4人に一人以上が楽しんでいる。同じ調査の、ジョギング(ランニング)が760万人、サイクリングが464万人という結果からも、いかに日本人がウォーキング好きかがわかるだろう。
とはいうものの、昔から盛んだったわけではない。スポーツとしてのウォーキングが日本で始まったのは1964年のこと。しかも当時は、ランニングのほうが普及していた。それが逆転したのは1980年代で、特に90年代以降にウォーキングの競技人口が急増。1988年の約1300万人から9年間で2.4倍になった。現在、ウォーキングシューズは、15年前の約30倍、年間1000万足以上も売れているのである。
「ブームの中心は、50歳代から70歳代の中高年層です。ジョギングは足腰への負担が大きく、高齢者や病歴のある人には難しい。その点、ウォーキングは体にやさしい。いつでもどこでも、誰にでもできる。道具もいらない。手軽なスポーツであることが知れ渡り、やってみようという人が増えたんです」
と、初心者ウォーカーの指導を担当している高部郁夫さん(日本ウオーキング協会)は言う。
最初は散歩程度のつもりが、そのうち同じように歩いている人と友達になり、やがて誘いあって講習会や大会に参加する熱心なウォーカーになっていく、という人が多いという。
さらに、厚生労働省や医療関係者がウォーキングの効用を広めていることも、ブームを支える大きな要因となっている。運動不足で肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病になった高齢者に対して、医師は必ずといっていいほど「歩きなさい」と指導する。新聞やテレビでも、たびたびウォーキングは健康的なスポーツだと紹介されている。「歩くことは健康によい」というのは、いまや日本人の常識なのだ。
世界で最も長寿の国・日本は、最先端の医療だけでなく、適度な運動=ウォーキングが支えている、というわけだ。