音楽と踊りで神様を迎える
【貫井囃子】
文●鳥飼新市 写真●河野利彦

 東京の西郊・小金井市にある大澤敏夫さんの家には、週に3日、夕方になると、子どもたちや若者が集まってくる。この地に19世紀前半から伝わる「貫井囃子」の稽古に来るのだ。
 貫井囃子の演奏は、笛一人、鉦一人、小太鼓二人、大太鼓一人の五人編成。
 曲に合わせて、子どもたちが踊り出す。鍬で地面を掘る、手ぬぐいを絞るなど、かつての農村の情景を、腰を落として大袈裟に踊るのだ。本番では、それぞれが、ヒョットコやオカメ、シシ、キツネの面などをつけて扮装する。
「ほら、腰があがってるぞ」「腕をしっかり伸ばせ、指先まで伸ばすんだ」大澤さんの厳しい声が飛ぶ。
「お囃子の一番のよさは、みんなが参加できることです。盛り上がってくると、見ている人もついつい踊り出してしまう。そんな踊りができるように、基本を厳しく教えているんですよ」
 170年近く続く貫井囃子だが、第2次世界大戦後の一時期、ぷっつり途絶えたことがあった。なんとか復活させたかった大澤さんは、隣の府中市に、貫井囃子の流れをくむお囃子が残っていることを聞き、仲間に声をかけて、習いに出かけた。そして30年前に結成されたのが、貫井囃子保存会である。以来、大澤さんは子どもたちや若者とともに、週3日の練習を欠かさず続けてきている。
 曲にも工夫を凝らし、いま風にテンポを速めたりしている。それも、貫井囃子を二度と途絶えさせないためだ。
「お囃子は日本人の魂のリズムですよ。だから、基本さえしっかり守っていれば、新たなものを取り入れて変化させてもいいと思うんです。お囃子は“生き物”なんですよ」
 今日も大澤さんの家では、晴れの舞台に向けて、稽古が行われている。



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