山間の村に受け継がれる芸
【檜枝岐歌舞伎】
文●鳥飼新市 写真●伊藤千晴、河野利彦

雪に閉ざされる村だからこそ
 東京から北へ約150km。福島県の檜枝岐村は、周囲を2000m級の山々に囲まれた小さな村で、日本最大の高層湿原として有名な尾瀬への入り口として知られている。
 毎年10月頃になると雪が降り始め、翌年の4月まで積もった雪は消えない。積雪が2mを超えることもある豪雪地帯だ。道路が整備されていなかった1960年代までは、1年のうち4カ月は雪に閉ざされ、近隣の村との交流も思うにまかせなかった。そんな檜枝岐村だからこそ、農村歌舞伎が昔のままの形で、200年にもわたって受け継がれてきたのだろう。
 檜枝岐歌舞伎の始まりは、旅や出稼ぎなどで江戸(現在の東京)を訪れた村人が、「歌舞伎」を観劇し、所作を覚えて帰ったことからと言われる。
 以来、家々で、親から子へと、役や振りなどが伝えられてきた。農作業の合間にそれぞれの家で練習し、農閑期に集まっては、全体での稽古が行われ、祭りなどで演じられてきた。20世紀初めには、檜枝岐歌舞伎を上演する村人が集まり、「千葉之家花駒座」という劇団が旗揚げされた。現在の座長・星正徳さんで8代目になる。

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